A010-ジャーナリスト

燃える少年少女たち『子ども大凧合戦大会』、新潟・白根=写真で観戦

 新潟市・白根(しろね)で、勇壮な世界最大級の『白根凧揚合戦』(佐藤弘会長)が開催された。6月5日から始まり、10日(日)まで5日間にわたる。

 同大会は江戸時代中期から始まり、約300年の伝統がある。

 子ども凧合戦は1975(昭和50)年から始まり、今回で39回に及ぶ。初日の5日の午後2時から6時まで、小学校・10校の生徒たちの参加で、戦われた。

 小学生が揚げる凧は6畳(5x7メートル)である。



 2013年の子ども同大会は、13校中10校が参加した。そのうち、8人の校長が参列し、2時から6時まで熱い声援を送っていた。

 2012年度の優勝は「武田信玄」チームだった。同大会では準優勝、さらには技能賞まで授与される。

 昨年は技能賞だったチームの女子が、返還を前に名残り惜しそうにカップを抱え込んでいた。



 開会式は、大会役員から、伝統ある「白根凧揚合戦」の誇りが語られた。

「子どもは地域の宝物です。最高の1日にしてください」
 その一方で、怪我をしないように、とくり返し注意を促す。

 合戦とは戦いである。荒々しさは付きものだけに、大会関係者は気をもんでいるのだろう。


 少年・少女たちがリズミカルに『笛』をふきながら、土手の会場へとやってきた。

 子どもたちは笛で自分を鼓舞する。狭い土手には観客も、カメラマンも、各チームのメンバーも含めて大勢の人である。『笛』を聞けば、通路を開けてもらうためでもあった。



 小学生のみならず、親も加わっている。

「親の方が熱くなるんですよ。私が生まれた時から、子どもの凧揚げ合戦はありましたし、参加していました。凧揚げ合戦が子どものころから、からだに沁みこんでいるんです」
 30代の母親が教えてくれた。

 東側からあげられた大凧(女)が空中に舞う。すると、西側からあげられた凧(男)が襲う。2つのローブが絡まって、中ノ口川の川面に落ちると、こんどは綱引き合戦となる。

 ロープを切った方が勝利者になる。

 1チームが4回凧を舞い上げる。

 勝利点数が高いチームが優勝となる。

 



 「かつしかPPクラブ」が、新潟市・南区で開催される「白根大凧合戦」に取材に訪れた。

 白根凧合戦協会の30余人が、ここ5年にわたり、「葛飾・堀切凧揚げ大会」(主催・葛飾教育委員会)に参加し、指導を行ってきている。(毎年、1月中旬)

 第1回は堀切中学生の学校行事だった。2度目の同大会で、大凧が東電の高圧送電線に引っかけた。それが却ってメディアの注目を集めた。

 3、4回と進むうちに、東京スカイツリーを背景に舞う、子どもらの無数の凧が評判になった。5回となった今年は、観光ツアーバスの立ち寄り、開会式には国会議員、さらに殆どの大手メディアも取材に来る。

 「かつしかPPクラブ」のメンバー6人が、葛飾で大きなイベントに育ててくれた白根の同協議会に取材にきた。

 写真・右は白根凧合戦協会の佐藤弘会長、左は同クラブの郡山副会長


 もっとも楽しいのは何ですか、という質問を向けると、
「凧揚げは、走る時がいちばん楽しい」
 と土橋くん(5年生)が語ってくれた。

 彼は昨年ロープが首にかかって、転倒し、脳震盪を起こしたとも話してくれた。

「私は一緒にロープを引いていました。夢中になり、後ろでわが子が転んだのも気づかなかったんですよ」

 母親のその一言で、町中の人が熱中していると伝わってきた。


 空中戦で、対岸からの合戦相手の凧と駆け引きで、川面ぎりぎりに凧を揚げていく。

 落ちる寸前で、舞い上がる。

 シャッターを切った後、さっーと舞い上がったのだから、すごい。

 この技術とロープを引く呼吸の良さには感慨を覚えた。



「私、凧の絵をかくのが好きです」
 水野あいさん(5年生)が語ってくれた。

 小学校のグランドで、一度試し揚げをしている、と教えてくれた。 


 大凧が合戦前に失速し、川に落ちてしまうこともある。

 子どもたちは思いのほか、残念がっていない。

 4回戦うのだから、気持ちはすぐ次の作戦に向かっているようだ。



 合戦の駆け引きが強すぎたのか、対岸に落ちてしまった。

 この川の西側は、むかし村上藩領だった。直江兼続が有名である。

 東側は新発田藩領だった。

 川面の上を滑るように凧を進めてきて、程よいところで、合戦を始めるのだ。

 双方の凧のロープが絡む瞬間は、土手の合戦会場は熱くなる。

 対岸の観覧席を超えて、民家の屋根に落ちた。

 「凧を、民家の屋根に落とさないように」
 開会式で、そんな注意があったので、奇異な感じがしていた。

 それを目撃すると、風の読み方の難しさが理解できた。

 川辺の民家は毎年、大会は5日間あるし、どこかしら被害を受けているかもしれない。

 東京ならば、きっと大会関係者に苦情を寄せるだろう。

 白根では鷹揚(おうよう)な人柄を感じた。

 「6年生になると、笛がふけるんだ。来年が楽しみだ」

 そう語ってくれたのは5年生の渡辺君だった。小学生にとっては、笛は憧れらしい。


 こちら側に落ちたら、もう戦いにならない。

 凧の四方には紐がついているけれど、元綱は1本である。

 考えてみれば、1本のロープで、空中の凧をコントロールするのだから、並たいていの技術ではない。

 

 墜落などすぐ忘れて、さあ次の合戦だ。

 白根には社寺仏閣の祭りがない。この大凧合戦がすべてなのだ。

 凧作りは昨年11月から行われる。

 竹を乾燥し、割って、骨組みを作る。

 和紙に模様を描く。

 ロープを縒(よ)る。 


 和紙だから、川に落ちると、すぐに溶けてしまう。

「もったいないですね」
 そう質問すると、

「花火と同じですよ。空中で一度舞うと、必ず落ちるものですから」

 佐藤弘大会会長がさりげなく言った。


 凧が絡めば、綱引きである。審判が赤と白の旗を持っている。

 この勝敗が熱っぽい。

 子ども会の名誉、地域の名誉に絡む、と誰もが話す。

 太いロープがぷちーんと切れた瞬間が快感と思いきや、どっちが勝ったのか、と胸がきりっと痛むようだ。


 2013年度、子供大会の優勝は、西軍側で、鯵潟(あじがた)子ども会だった。

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