A010-ジャーナリスト

宮城・気仙沼で見つけた天才少年、段ボール彫刻作家が心をなごます

 東日本大震災の被災地・気仙沼の市街地で、通行人が「おやっ」と足を止める光景がある。
 それは海産物問屋の店頭で、段ボール箱を組み立てたロボットが堂々と突っ立っている。それは誰が見ても、あきらかに子どもの作品だが、くすっと笑ってしまう。

 ㈱勝正商店は気仙沼駅から海岸の向う途中の、三日町交差点の角に位置する。信号待ちする乗用車の車窓からも、
「ほら、見て、みて」
 と指差す光景がある。

 年少者が制作したもので、海産物の空いた段ボール箱を利用したものだ。ユーモラスな作品だ。

 気仙沼は1000人以上の死者と行方不明者を出した、悲惨な被災地である。1年余りが経ったいま、ガレキの撤去は進んできたが、都市再生や復興は遅々として進んでいない。市民の多くは心に傷を負ったままで、口には出さないが、暗い気持ちである。

 それだけに小学校1年生の斉藤勝市郎くん(さいとう しょういちろう・6歳)の作品が、行きかう人の心を思わずなごませるし、明るい話題の提供となっている。

 

 三日町1丁目は、3.11の大津波が床下まできた地域だ。全壊の家屋が少なかっただけに、商店や会社などは順次営業を再開してきている。

 勝正商店も同様である。オフィスと作業場が隣り合い、営業活動が行われている。これら海産物の袋詰めとオフィスワーク(家族5人と社員5人)が、通行ちゅうの人たちからものぞきこめる。

 そこには『段ボールの時計台』とか、『発泡スチロールのお城』とか、『三階建てマンション』とか、さらには絵画など、勝市郎くんの制作品が所狭しと展示されている。
 どの作品も箱の立体空間を上手に利用している。

 店内で、勝市郎くんの創作について話を聞いた。
「通行人の方が笑ったり、面白い、愉快だと足を止めてくれるんですよ」
 祖母が町の人気者だと教えてくれた。

 三陸地方は過去から海産物で栄えてきた。漁業の産地からは段ボールで商品が送られてくる。同店では作業場で小割して袋詰めする。
 毎日、決まって空箱が出てくる。勝市郎くんはそれら形状を見た瞬間に、何が作れるか、イメージがひらめくようだ。
「毎日、なにかしら作っています。カッターやナイフは危ないので、使わせていません。すべてハサミです」
 と母親が話す。
「働く人、全員にケータイのストラップを作ってくれたんですよ」
 母親がそれを見せてくれた。それぞれ(10人の)顔の特徴がとらえた動物に似せる、ユーモラスな絵が飾りになっている。

 小学校から帰ってきた勝市郎くんには、「何か作ってみて」というと、快く応じながらも、「きょうは良いもの(素材)がないしな」と首をかしげた。帰宅と同時に、作業場を見て、空の段ボールや発泡スチロールがないと、わかっていたのだ。

(制作現場を見られないのかな)
 そんな気持ちにさせられた。ところが、少年はすぐさまB2版ほど段ボール板を見つけ出してきた。この段階で、もはやイメージができあがったらしい。
 オフィスの応接セットに移動した。

 その壁には勝市郎くんの等身大の自画像もある。応接机で、段ボール板を置くと同時に、スケッチを始めた。そして18色のクレヨンで色を付けていく。一心に向かう。

 熱心に創作している勝市郎くんに、何ができるの? と問えば、毒牙のカニだという。ジャイアント・ドラゴン、他の怪獣との三つ巴の戦いだった。
 この年代の子どもの多くに見られる、怪獣とか、乗り物とか、一つの物にこだわっていない。勝市郎くんの創作の領域は広い。それが特徴だ。

 「これも見てください」
 祖母が取り出してきた、江戸前寿司は本ものそっくり。テーブルに茶菓子とお茶を置いてみた。すると、まさしく本物に思えた。さらなる創作品の海苔巻も同様に上手にできていた。
 次なる、チューリップの花は虹色である。
「1年に一度しか咲かないから、虹色なんだそうです」
 それは大人にない発想である。

「私たち家族全員が仕事をしてますから、子どもの相手をしてあげられないんです。だから、一人で遊びながら、楽しむことを覚えたようです。この職場にはテープや段ボールが豊富にありますから」
 母親は養育と仕事との兼ね合いを語る。

 先に作成したという、段ボール箱『マンション』をあらためて凝視すると、室内には浴槽とか、テーブルとか、諸もろの調度品とかが整っている。観るほどに愉快にさせてくれる。まさに段ボール彫刻作家である。
 それら作品が通行人から見えるのだ。

 勝市郎くんは教師に勧められたわけでもなく、親に命じられたわけでもない。
「観る人を意識した作品だ」
 ここに天分の才能を見ることができる。

勝市郎くんは大人が働くオフィス内で、自作のロケットで独り遊ぶ。そんな無邪気さも兼ねそなえている。
「これを押すと、宇宙に飛び出せンるんだ」
 非常用脱出ボタンも描いている。

 世の中には工作好きの少年・少女は多い。勝市郎くんはそれらを越えた、抜群の発想力、制作力にある。天才的だといえる。
 芸術とは見る側を意識した創作力である。

 少年の段ボール創作品が、被災地の人々の傷ついた心に、一瞥(いちべつ)にしろ、作品を通して、癒(いや)しを与えている。市民が笑みを浮かべ、明るくさせてもらえる。この才能は得難いものがある。

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