A010-ジャーナリスト

遠方より友来る。葛飾・立石は安価で、人情味ある飲み屋がひしめく。

「東京下町の情緒100景」が完了したのは、昨年の桜が咲くころだった。葛飾・立石を中心とした。堀切菖蒲園とか、柴又とか、浅草とか、メジャーなところは外し、素朴な面ばかり。それでも、いまだに読者がついている。

 先般も葛飾区教育委員会で、『かつしか区民大学』の発足について話を聞く機会があった。主事が一通り読んでおり、「葛飾にも、いろいろな面があると再認識させられました」という。それには驚かされた。素朴な情景も100景となると、厚みがあるようだ。


 葛飾・立石には町工場、家内工業、商店が集中する。下町の中心地のひとつ。仕事が引けると、工員、店員たちは帰り路で飲み屋にちょっと立ち寄る。長居はしない。飲み屋の多くが一人1000円台で呑める。庶民の町の飲み屋街なのだ。

 最近は親しい方に、「葛飾・立石は下町情緒たっぷりで、昭和が残っている街ですよ」とアナウンスしている。その上で、1000円台で飲める店が豊富にある、とも語る。
 大学時代の学友は随分気に入り、年に数回は葛飾立石に集ってくる。かつてITコンサルタントの肥田野正輝さん、旧友の関根稔さん、古関雅仁さんもやってきた。

 1月27日は、二上薆さん(エッセイ教室・受講生)と、松本道湛’さん(いまや写真家)が来てくれた。2人はともに元日本鋼管の先輩・後輩だという。(写真左:松本道湛’さん、右:二上薆さん)

 二上さんは押上駅の周辺を見てから、八広を通って新四ッ木橋に至るバスに乗ってみたという。地図を持って散策し、人影まれな木根川橋のあたりで、立石駅までの徒歩の時間を訊いた。誰が教えたのか、一時間はかかるといわれたらしい。実際は20分から30分くらい。ただし、下町の道は碁盤の目ではないから、迷いやすい。二上さんは隣の四ツ木駅から電車でやってきた。

 松本道湛’さんは3時間ほど前に到着し、駅前界隈、商店街、奥戸街道の周辺から路地裏までくまなく撮影してきたという。駅の拡大案内図で、そのルートを語る。健脚と熱心さとに感心させられた。

 3人が揃ったところで、葛飾・立石では超人気店のモツ煮「うちだ」に出むいた。徒歩で駅裏10秒のところ。戦後からの長い歴史を持つ店だ。2時の開店から長い列がつづく。この日に限って、3人は偶然にも待たずして店内に入れた。松本さんが先刻見たとき、随分並んでいたというから、ラッキーだった。

 店内は長テーブルと長椅子で、客どうしが肩を寄せ合って呑む。手荷物はヒザ上に乗せる狭さだ。3人はビールとモツ煮で、乾杯。「美味しい」の連発。向かい側に座る、推定30代後半の男性は、四ツ木の仕事場から水元に変える途中で立ち寄った常連客だという。(写真・暖簾をくぐり出る、左手)

『タン、ハツ、シロ、生のレバー』などに対して、タレとか、塩とか、酢とか、美味い調味の食べ方を教えてくれる。それに乗ってみた。ことのほか美食が楽しめた。一人1000円ていどで、予算通り。

 立石仲見世は店舗がひしめく。おでん屋『二毛作』は、おでんの種の製造販売店が隣に飲み屋を出したもの。いまや人気店。店の従業員は20代の男性で、ちょっと芸能人風。おでんダネは豊富だし、手作りだし、関西風の薄味で、舌鼓を打つ。ここも一人1000円ていどだった。

 京成電鉄の赤い電車が通過した、踏切を渡り、1分で『呑べい横町』の路地に入る。散策してきた松本さんも気づかなかった、という。それほど細い路地だ。多くは8時からで、7時台では2軒しか開いていなかった。スナック『さくらんぼ』のママが山形出身で、帰省してきたばかり。山形仕込の手作りコンニャクとか、蕗とか、珍味を出してくれた。まさしく家族料理だ。それでも1000円ていどだ。

 2人は神奈川県・逗子と横須賀だから、京成立石駅からは三浦海岸行きの電車だ。待ち時間が20分あった。このわずかな間に、これも有名な立ち食いすし屋「栄寿司」に入った。ウニ巻きとマグロとブリを頼む。一人1000円でお釣がくる。2人とは京成立石駅の改札で分かれた。

 2月半ばには日本ペンクラブの小中陽太郎さん、大原雄さん(元NHK)も立石に来る、予定になっている。

『かつしか区民大学』では、区民の受講生がこうした葛飾の情感や情緒を発信する、そんな講座が指導できたらいいな、と思う。
 

関連情報

松本道湛’さん写真集・京成立石駅近傍散策

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