A010-ジャーナリスト

3分間のスリリングな仕事=東京・地下鉄の達人

 東京メトロ・有楽町線の池袋駅で、深夜九時ごろ、めずらしい光景を見た。ふだん駅ホームに立ち、トンネル壁面の広告版をみる。時折り、広告の看板が変わっている。取り替えはいつも終電車後だろう、と思い込んでいた。


 ふたりの制服作業員が一畳ほどの大きな看板を持って目の前を横切った。興味を持って後を追ってみた。ホームのやや後方で、立ち止まった。もう一人の作業員が黄色と黒のトラ模様のはしごを持って現れた。
 3人は新旧の看板を取り替える気だ。作業員たちはデジタル表示の電車時刻表を凝視していた。もし作業が20分、30分先で、長く待たされるようなら、立ち去る気でいた。

 東武東上線への乗入れ電車が入線してきた。3人の作業員の目が発車時刻の表示版にむけられた。次は西武線乗り入れ電車だ。この間は4分だ。作業員には多少の緊張感が漂う。

(この4分間で、看板を取り替える気だな。シャッターチャンスがある)
 発車ベルが鳴った。帰宅を急ぐサラリーマンの駆け込み乗車があった。『駆け込み乗車は危険です』と駅員の苛立つ放送がくり返された。

 
 東上線電車が十数秒遅れて発車した。電光掲示板は次の電車まで3分間を示す。今回は見送りかな? 発車した電車の後部車両が目の前を通過した。同時に、ふたりの作業員がさっとホームに下りた。はしごをかける。古い広告塔を外す。そして、駅ホームに手渡す。見事な撤収だ。
 
 次の手順として、ホームから新しい広告を受け取る。すぐさま2本のはしごを駆け上った。手馴れたものだ。即座に、新しい広告をとりつけた。ホームに急ぎ戻ってきた。まさしく早業だ。

 かれらは何事もなかったように、古い広告とはしごを持って立ち去っていった。

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