A010-ジャーナリスト

学友の集まり・酒場から追い出される

大学時代のゼミ仲間が月一度は集まる。ごく自然と恒例となった。

今回は、元大学教授が海外で遊び過ぎて、風邪でダウン。元銀行屋が休日なのに代行出勤で欠席。もともと生真面目だから、「身内が危篤」だと嘘をついて呑みにくるタイプではない。
五人中二人欠席だ。焼き芋屋が朝のうちに、「だめだな。きょうは止めよう」と中止が決定。ところが、元布団屋との電話連絡がつかない。ひとまず『中止』のメールを入れた。夕方五時半。念のために待ち合わせ場所に出向いた。

「いい町だな」かれはすでに独り駅裏でビールと焼酎を飲んできていた。そのうえ、ラーメンを食べていた。これまでの経過を説明すれば、「このソフトバンクの携帯メールは文字が小さすぎて読めないんだ」といい液晶を見せる。

 たしかに小粒な文字が蟻のごとく並んでいる。年齢的にも、老眼が進んでいる。文字が読めなかったことが幸いし、かれはやってきていたのだ。

 顔をあわせると、まさに学友だ。「二人で飲むか」と即座に決まった。この際、焼き芋屋を呼ぼう。『あいつは来るさ』と信じて疑わない。大の酒好きだ。中止を言い出した男だが、どこ吹く風でやってきた。

『うちだ』は祝日の前で、長い行列。「これはだめだ。待たされ過ぎだ」。ともに並ぶ常連らしい一人に、近くの店を教わった。地元の私が偵察に行った。

 焼き芋屋から携帯電話が入り、「うちだが、一気に空いたぞ。客が入れ替わる。早く戻って来い」と連絡が入った。そんなことを言っても、5分や10分は待たされるだろう。立石駅のトイレに行って出向いた。

 三人のうち仲間の一人が欠けていたことから、追い出されたという。改めて順番を取る。やっと、店内に入れた。私の顔を見て、『レッドカードだ』と店員に言われた。
「常連がだめじゃないか」
「トイレに行っていた」
「この裏にあるだろう」
 店員は、私を地元だと知る。自宅に帰ったと思ったらしい。
「そうだったな」
 私は苦笑した。地元に居ながら、近くのトイレを忘れていた。

 この店は焼き物のメニューがない。オーダーするのには苦労する。隣の客の食べ物を見て、「これをほしい」と指す。「まだ覚えていないのか」と店員に侮られる。いつもレベルの低い客に見られているようだ。それでいて、憎めない店だから、不思議だ。

 二軒目は、線路際から細く奥まった路地で、老婆ひとりが取り仕切る『ひょうたん』という酒場。色気はなければ、清潔感すらもない。隣の客がおまえとは握手をしないぞ、と口論している。それでいて、居心地がいい店だ。

 三件目は、近くの中華料理屋。ここが本場の中国料理で、中国人女性が接客し、なおかつ安い。紹興酒を一本取り、料理は二品、奴っ子二つ、ラーメン。合計3500円だ。
 どの店も不思議に一人あたり1500円。これが下町立石の酒場の特徴だ。

 次回は元布団屋の住まいに近い、埼玉県の『さいたま市』という奇異な都市名になった、大宮か、与野かで呑むことに決まった。
 元布団屋は十二月に夫婦でオーストラリアの旅行に行く計画がある。それらが肴になることだろう。

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