A010-ジャーナリスト

椎名誠さんの日本ペンクラブ・ミニ講演会より

 椎名誠さんが約20分間、北極圏(シベリア、アラスカ、グリーンランド)に生活するエスキモーとの生活の体験談を語った。
 冒頭に、椎名さんは差別用語に触れた。PJニュース『差別用語は、本当に差別なのか?』で、それについて紹介した。

【講演が全般に渡りユニークだったので、ウェブで再現したい】

 アラスカの旅で、椎名誠さんは森林限界の生活実感を得たという。ツンドラには樹木や草などないので、住民の主食はアザラシである。若者すらも鉄砲や槍で上手に獲物を射止める。
 獲物は即座に、氷点下40度の氷のうえで解体する。解体後、かれらはさっとアザラシの体内に手を入れる。

「なんのためか?」と椎名さんは、聴講するひとにも推理させる。
 この間に、椎名さんは遡ること、モンゴルの遊牧民の取材旅行でも同様の光景をみたという。家畜を殺すと、モンゴル人はさっと手を突っ込み、指先で心臓の大動脈を切る。それは家畜の血が体外に流出させない止血だった。血も大切な食べ物だから。

 椎名さんの話しがさらに横道にそれていく。「日本のジンギスカン鍋と同様のものが、モンゴルにあるのか?」。手ぶり身振りで説明したらしい。モンゴルの人には理解できなかった。そもそも肉は焼かない。獣脂がぽたぽた落ち、勿体ないからだと説明を受けたという。
 
「だれがいつジンギスカン鍋を考案したのか?」、不思議だと椎名さんは語る。

 話しはアラスカにもどった。エスキモーは氷点下四十度の酷寒でも、素手でアザラシを割く。解体した直後、かれらがアザラシの体内に手を入れるのは暖を取るためだという。外気温とアザラシの体内とでは、温度差が70度もあるのだから。

「アザラシには筋肉と脂肪との間に、かなり寄生虫がいる。これはおどろきだった」
 エスキモーは手で寄生虫をかき集め、口に放り込む。これも貴重な蛋白源だという。『ゴキブリとは違う』と椎名さんは自分に言い聞かせて食べたという。生まれてはじめて食べた寄生虫も、北極圏では補助栄養・サプリメントだと笑わす。

 エスキモーの少女がアザラシの腸を細かく切って吸っていた。小腸のなかをチュウチュウ吸う。「腸のなかはつまり糞だ」と思うと、不快だったが、何事も体験だと真似てみた。やや塩辛く、たらこの味に近かった。これもビタミンCの補給だと、笑いを誘う。

 ツンドラの氷が溶ける時期は、世界3大猛蚊のひとつ蚊が大挙して押し寄せてくる。防御のために、完全防護服を着る。目を覆うグラスにも群がる。視野のなかでウヨウヨ動くから異様な風景にみえると語った。
食事とか、排便となると、蚊が必然的にそこから防護服の内部に入ってくる。刺されて、全身が腫れ上がった。しかし、数日経つと免疫ができたという。

 三大蚊のひとつアマゾンでは、夜九時ころになると消えていた。ツンドラの蚊は24時間襲ってきたという。
 
 エスキモーの生活は基本時に厳しい環境に置かれている。しかし、かれらの生活圏のなかにも、コンビニエンス・ストアができた。食生活が変わった。肥満や巨体のエスキモーが増えてきた、と椎名さんは紹介した。

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