A010-ジャーナリスト

東京都で最も低い山で、登頂ならず

 東京都で最も低い山はどこか。素朴な疑問から、国土交通省国土地理院(つくば市)に電話取材してみた。窓口の人は『東京都ですか? 日本一の低い山ならば、大阪の天保山ですが……』とおどろいていた。最近は低山ブームで問合せはあるらしいが、東京都に限定した質問は初めてのような雰囲気だった。

『天保山。これもいろいろありまして、人口の山のようです』という。わたしがなおも東京都に拘泥すると、専門の部署『測図部』が紹介され、電話がまわされた。基本情報調査課の担当者もすぐに答えを出せないで困ったようすだった。『山』という定義は学者によって意見が分かれる。国土地理院としては、これが最も低い山だと決め付けもできないというのだ。
 こうなると、ジャーナリスト精神で、さらなる好奇心が強まる。「訪ねるとすれば、大学の地理関係の学者ですか。それとも地質学ですか」と訊いた。すると、特定の権威者の学説だけで、『山』の定義が決まらないという。奥行きがだんだん深くなってくる。他方で、どこかで行き詰まるような予感をおぼえた。
 国土地理院としては2万5000分の1の地図のなかで、「山」と表記されたなかから、最も低い山ならば、一日ほど余裕をもらえば、選び出せるという。私は飛びついた。その日の夕方には回答がもらえた。

 「139度44分55.36秒、35度39分53.21秒 愛宕山(あたごやま)高さ25.69m 東京都港区」 

 NHK愛宕山。日本初のラジオ放送でも有名だ。東京タワーにも近い。慈恵医大・本院もすぐそばだ。私は28歳から約10年間通った病院だし、2度も入院した。日比谷線の神谷町から登れば、簡単だと思った。
 梅雨特有の蒸し暑い日だった。わたしはデジカメと筆記具を持って現地取材と決め込んだ。登り口から迷ってしまった。行けどもいけども、社寺の突き当たりばかり。境内の通り抜けは禁止。坂道を登ったり、下ったりするばかりだ。
 通りがかりの人に「山頂はどこですか」と訊くと、侮った目で見られた。『愛宕山』とは単なる住居表示の地名だと思い込んでいる節があった。
「139度44分55.36秒、35度39分53.21秒」
 これこそ宝の持ち腐れで、測量術がないわたしにはまったく役立たなかった。次ぎの行動予定があったので、しかたなく引き返してきた。
 東京都で最も低い山の登頂に失敗した。「どこの山でも、侮れない』と妙なところで、明瞭な地図すら持たない登山のむずかしさが認識させられた。
 次回は策を考え、登頂を果たしたい。

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