A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(092 繁華街)

 下町といえば、路地裏が似合う。住民は古い生活スタイルを持っている。

 住民が時おりJR駅前にむかう。ある人は表通りからバスに乗ったり、ある者は狭い生活路の奥から自転車のペダルを漕いだり、近くの住民は徒歩で総武線のガード下をくぐったりして、駅前に出る。そこには下町の住民好みの、ふだん着でいける繁華街があった。

 戦後の闇市から発展した区画のない、雑然とした場所だ。街全体に泥臭い面影が残る。酔客が目立つ横丁。ひょろひょろ高い雑居ビル群と多段に並ぶ看板。昔ながらのアーケード商店街。そのなかに中小のオフィスが点在する。

 路地裏に回れば、呼び込みの声。いかがわしいネオンの遊興の店が並ぶ。不統一の混然とした繁華街だ。

 昭和半ばまでは映画館、パチンコ店、飲食、遊興の歓楽地として、ずいぶん栄えたものだ。東京都民の憩いの場ともいわれた。国電を乗り継いで、遠くから遊びにくる人出もあった。

 いまとなれば見渡しても、高層のシンボル・ビルはない。最新の流行を感じさせる店舗も、高級デパートもない。若者が闊歩する、ファッショナブルな歩道もない。いつしか流行に遅れた町となった。

 前々から叫ばれていた、駅前再開発すら進まない。旧態の古い町で、老舗というべきか、昔ながらの店が軒を連ねる。だからこそ、下町の人が愛する古いスタイルの繁華街になれたのだ。

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