A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(089 縁日)

 わたしの家まで、太鼓の音が聞こえてきた。東京音頭の曲が流れている。わたしの心は躍る。わたしは神社の秋祭りがとても好きなの。
 

 待ちに待った祭りの日だから、鳥居まで駆けていった。境内まで、テントの屋台がならぶ。どの店も裸電球がつよく点る。電球の明かりで、食べ物がみな光って見える。

 母さんから小遣いをもらってきた。今月のお小遣いもある。屋台を一軒ずつみて回った。なにを買おうかと迷ってしまう。隣の子が持っている綿菓子がいいな、と思う。でも、決められない。

『わたしって、心がとても迷いやすいの』
 もう一度、鳥居から見て回ることに決めた。

 金魚すくいは楽しそう。去年は二匹の金魚を持ち帰ったら、父さんが水槽を買ってくれた。でも、すぐ死んでしまった。可哀そうだったから、今年は止める。

 屋台のお兄さんは、「さあ、らっしゃい」と声をかける。お好み焼きも、イカ焼きもいい匂い。食べたくなるけど、夕飯を食べてきたから、止める。

 小学校の同級の男子から「何も買ってないのか。貯金するのか」とからかわれた。恥ずかしかった。「そんなことないわよ」と言い返した。一番人だかりがしている、かき氷に決めた。
 

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