A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(087 川原のススキ)

川面の直射の光の輝きは、真夏の強烈さが弱まってきた。いつしか夏が終わり、秋の風を感じてきた。中川の橋を渡り、下流沿いに足を運んでみた。

川辺の一角では、群生するススキの穂が風に揺れている。


 都会のススキにはなぜ華やかさがない。数十本が穂先を合わせてゆれても、応援団のような賑やかさすらない。なぜだろうか。太陽の下にありながらも、川原のススキは輝きすらもたない。

 秋の声をひとたび聞くと、中秋、晩秋と、季節の変わり目がことのほか早くなる。ススキほど晩秋に似合うものはない。なんて淋しい情感に色よく染まるのか。

 人生も燃え盛る二十歳代、三十歳代を過ぎると、いつしか秋の風が吹く。気づけば四十代が過ぎ、五十代の声を聞くようになる。
 この間に、自分はいつ花を咲かせたのだろうか、と思い返す。他方で、六十歳からの晩年を想うとなおさら寒々と侘びしい。木枯らしに揺れるススキと重なり合ってくる。

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