A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(079 猫)

「東京の下町には猫が多いんでしょ」と訊かれた。注意して、観察したことはない。ふだん道路を横切る猫とか、屋根に寝そべる猫とか、児童公園でプラプラしている猫とかは折々に見かける。どのていど猫がいるのか、見当がつかない。

 地方には飼い犬が多く、都会には野良猫が多い。この差は歴然とあるようだ。
 閑散とした田舎町だと、番犬に役立つ。隣家との距離があることから、犬が吠えても、近所への迷惑になりにくい。東京の下町となると、住居地は密集地帯だ。近所付き合いは残っているが、犬が吠えれば、別ものだ。苦情が舞い込む。となると、まわりからギクシャクしてくる。ペット好きは座敷犬か、猫をかわいがることになる。

 猫の写真を撮りに界隈(かいわい)に出かけてみた。壁際とか、室外機とか、納屋の横とかに、猫がうずくまっている。首輪をつけた飼い猫はじっとしている。野良猫はさっと逃げ出す。好い被写体になる猫が見当たらない。

 野良猫に子猫が産まれた、五匹いると教えてくれた。カメラを向けると、乳を与える母親が威嚇する。子猫はうずくまったままで、顔の表情が撮れなかった。ペットだけが動物ではない。野良猫にも、下町で生きる権利がある。

 成長は早く、一週間後には子猫が塀の上に上がっていた。こちらを振り向いてくれた。親はいつまでも、威嚇していたけれど。

 公園の掲示板には、『野良猫に餌をあげないでください』と張り紙がされていた。

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