A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(052 ビルのリボン)

 下町の街並みが変化しても、まだ平屋建て、二階建てが密集する。突出したビルがあった。見上げると、ビルがリボンを結んでいた。リボンでなく、気取った蝶ネクタイなのか。いろいろ想像が膨らむ。

 ビルのショーウィンドーには数多くのおもちゃが展示されていた。遠いむかしは小さなおもちゃ工場だった。


 ブリキ玩具が流行ったころ、一階が狭い工場、二階が三世帯の住居だった。そんな時代がながくつづいた。父ちゃん、母ちゃん,お婆ちゃんが手作業で、細かな部品をつくっていた。夜遅くまでも、一つひとつ部品を組み立てる。

 学校帰りの子どもも手伝う。3ちゃん家業とか、家内工業とかよばれた。そのころは小さなおもちゃ工場が軒を連ねていた。

 食事の団欒は、家族全員で、人形が器用に動く仕掛けを考えたり、TV人気のキャラクター玩具を模造したり、愛らしい縫いぐるみを考えたり。共通する思いは、世の子どもたちに夢を与えることだった。

 おもちゃの業界は流行に敏感だ。家内工業の弱さで、いつまでも細々とした会社だった。時の流れからも、いつも取り残されていた。それでも、細々と玩具を作り続けきた。

 回りには廃れたり、登ったり。消えた工場も多い。ある日突然、一つのおもちゃが大ヒット商品になった。やがて、日本中に名の知れた会社になった。

 いまではロボット機械がおもちゃを作り出す。そして、下町に似合わない大きなビルを建てた。青いリボンを結ぶことで、子どもたちの想像を膨らませた。
 大手になっても奢らず、子どもに夢を与える創業精神は忘れてはいないつもり。青空の下で、リボンで飾られたビルが聳え立つ。

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