A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(幾何学的な飾り 027)

 下町にも科学の進歩が押し寄せてくる。ふたつの新と旧の橋が重なり合あう。角度によっては、複数の斜線が、放射状に織り成す。また、縦、横の直線となる。鉄と鉄がともに造形を語りあっているかのように。
 

 高速道路のハープ橋ができたころは、下町に不似合いな造形の構築物が生まれたものだと思った。違和感のある風景だった。不快感すらあった。

 歳月とは不思議なものだ。ハープ橋は下町のなかにうまく溶け込み、実に上手に調和してきた。取り立てて、新たな造形が加わったわけでもない。もはや下町の情緒の一つとしてしっかり認知されているのだ。それは目に優しく、幾何学的な美の飾りだ。

 太陽が雲間から下界の造形をのぞき見ている。きっと街の飾りだと思って眺めているのだろう。そこに、赤い車が色合いを添えていた。

「東京下町の情緒100景」トップへ戻る