A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(送電線 026)

 真っ赤に燃えた太陽が沈みかけた。夕日は消えゆくわが身を嫌うように、送電線の鉄塔にしがみついた。夜の気配を察したのだろう、河川のススキが寝床に入る準備をはじめた。穂先を並べて枕の用意をしている。

 夕日は鉄塔にも送電線にも嫌われ、突き放されてしまった。

 陽はやむを得ず下町のビル群の背後に顔を隠した。地平から消えると、残照が西の空を焼けつくす。ビル群が金屏風を背にしてシルエットで浮かぶ。

 うす闇の気配が広がると、住居の窓から灯火が点きはじめた。いちばん星を見たあとのように、窓から次々と明かりが増える。ここは送電線の腕のみせどころだ。

しかし、闇が濃くなると、鉄塔から鉄塔に渡されたケーブルが段々細く消えていた。きっと一晩中、黙々と電気を送り続けるのだろう。

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