A065-東京下町の情緒100景

東京下町の情緒100景(檻の中 019)

世の中が荒んできたせいだろうか。下町の児童公園の砂場に、子ども用の鉄製の檻が完成した。罪のない子供を収監するわけでもなさそうだ。

 幼子は先刻から砂場で窮屈そうに遊ぶ。砂遊びに飽きても、かんたんには檻の外に出られそうにもない。

 子どもから目を離した母親は、お喋りに夢中。この上ない安全な檻だ。
「危ないから、出たらだめなのよ」その一言のみですむ。

 さっきから砂遊びに飽きた子どもはブランコに乗りたい、滑り台で遊びたい、熊さん、キリンさん、お馬さんに乗りたい。でも、鉄檻は乗り越えられない。

『誘拐魔から、幼子を守る。安全な檻』
 発案した公園管理者は知恵者だろう。子どもの情感などき思慮の外。密閉、封鎖による情緒障害などは関係ないと判断したのだろう。

 母親はなおもわが子から目を離して屈託なくお喋り。この上ない時間を与えてくれた檻。最も楽しめるひと時。檻に感謝するのみ。

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