【孔雀船106号 詩】 承久三年のブロッコリー 望月 苑巳
更新日:2025年9月 9日
大皿の上にブロッコリーが
ストーンサークルのように配置されている
母が円形に怒鳴る
「残さないで野菜も食べるのよ」
そそくさとクラウチングスタイルのネズミ一匹
我ながら情けないと思う
ふむ、枕草子には
野菜はブロッコリーにかぎると、あったな
清少納言の仕草を真似て
定家卿は扇を口に含み笑い
きのう化野念仏寺で密会した女子は
顔色が暗く折りたたまれていたが
後白河院の言葉をなぞれば
すべてはうつつよ、たわむれよ、となるか
十三歳年上の才女に手向けた一首を
思い出して年甲斐もなく心ときめかせる
床の霜枕の氷消えわびぬ結びもおかぬ人の契りに *
ぼくは枕草子を閉じると
ブロッコリーにたっぷりマヨネーズをからませて
ガブリと食らいつく
苦くて柔らかい愛情が口の中にだらしなく広がる
十七歳で深海魚になった弟が
欄間でアッカンペーをしている
もう喧嘩もできない淋しさが
茹でたてのお鍋から立ちのぼる
承久三年のブロッコリーが
本の中で弟の分まで茹であがった
*藤原定家
【関連情報】
孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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