【孔雀船106号 詩】 女王雌日芝(メヒシバ) 新倉 葉音
更新日:2025年9月 8日
春の陽を浴びている一叢のメヒシバ
新緑を風にさらして揺れる
笹のようなしなやかな葉
その優しさを楽しんでいる間に
足下では茎が縦横に這い出し
勢威を振るっているはずだ
その音が聞こえているのは空耳なのか
茎は分岐しながら細い根を出し
踏まれても引き抜かれても
そこから再生し
生き残っていく
夏 戦いの始まりだ
日焼け止めクリームを厚塗りし
垂れつき帽を目深に被り
鎌を片手にメヒシバに向かう
負けるのはわかっている
しかし放っておくわけにはいかない
やがて花芯が立ち上がり放射状の穂から
何万個もの種子がばら蒔かれる
災害に備えて
一斉には発芽しないという種
雑草の女王と言われるメヒシバは
したたかな知恵ものだ
節をひとつひとつ
ほじくり出すと背丈ほどの株になった
匍匐前進 陣地拡大
補給は節々が担いどこまでも広がってゆく
砂利の駐車スペースに草の山ができた
草はすぐに萎れいずれ消えてゆくが
人の戦いが積み上がる瓦礫の山はどうだろう
無意味そのものだ
消せない想いが過る
有史以前から生き続けているメヒシバは
土と陽の光さえあればどこへでも
今や世界を制覇しつつあるらしい
除草剤などどこ吹く風だ
【関連情報】
孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
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