A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船106号 詩】 水晶体  紫 圭子

むきだしの
眼球
麻酔が打たれた
痛みはわずかだった

眼球は見る
濁りはじめた
水晶体が剥がされていくのを
覆いかぶさるように覗く眼科医がふいに消えて
ライトが熱い

光いっしょに
眼球は色彩の海にひきずりこまれていく
不思議な音がひびいた
音楽のようだ
上から濃いピンクの塊が迫ってきて
右から黄の光が射してくる
濃いピンクの塊が消えると
青 緑 赤 光が現れて
つぎつぎに光の色が乱舞する
これはいったいなんだろう
色彩がつぎつぎに現れては消えて
また新しい色と形が迫ってくる
内なる
はなびらの出現だ
と思いきや
画面が暗転

ベージュをバックに黒い小さな三角が横にふたつ並んで三角目が現れ
た その下にすこし大きな三角形がひとつ現れて口になった 顔の形
だ 三角目玉と三角の口は鬼の顏だった これはわたしの水晶体が剥
がされていくのをわたしが見ているのだ きっと この鬼は水晶体の
剥がされたあとに付けられる人工水晶体を待っているのだ 急にわた
しの手の平に汗が滲みだした さっき見た鮮やかな色彩は はなびら
の化身にちがいない わたしの水晶体を葬るために現れたのだ 色と
りどりの光るはなびら 幾重にも重なってわたしの水晶体を見送りに
きたのだろう 千の蓮のはなびら はなびらをいちまいいちまい剥が
して あたらしいわたしの人工水晶体にいのちを吹き込む 千の蓮の
はなびら わたしの内なる千のはなびらは目から開かれていくだろう

音楽は消えて
右目は眼帯で覆われた

握りしめた手の平に
はなびら型の汗がにじんで

水晶体 PDF.pdf


【関連情報】
 孔雀船は105号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
  メール teikakyou@jcom.home.ne.jp


2 眼科医が水晶体の施術をしているイラスト.png

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