A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船102号 詩】 スリッパは見た!!  田中圭介

氷河期の平原に陽が射していた
マンモスに蹴散らかされ斃れた狩人は
皆に囲まれて美味しく食べられそしてまた生き返った
吹雪く日の洞窟は猿団子で温かったし 
今世紀 凍えた焼死体が死ねずに行進していると男
またぞろ 目元が夕焼け小焼けと女
           
マグロ大トロのイラスト.pngだから天空を泳がないうちのまぐろは旨くないのだ
夢のなかを自由に回遊しそして静かに眠る
世の中には熟成した味というものがある
それも大トロの想像の舌触りがまた旨いのだ
わたし 活きた魚を食べたいわ
この刺身あなたといっしょ 氷河期のままなんし
 
九州男子は愛しているなどと口走らない
黙ってこころの蓋を内側から見詰めておれば 
ふつふつと発酵する音が聞こえて無言の旨味になる
透き通った芳醇な愛はこうして仕込まれるのだと 
四分六の焼酎の揺れる水平線 まぐろが跳ねた
コップを透かして向こう側の魚眼をチラッと見た男

葱を刻む音で男はぼんやり目を醒ます         
冷蔵庫のなかで呼吸をしていた無精卵が
単純に目玉焼きになる朝だ
煙の見える映像と味噌の立つ匂い
遠くでマンモスが吼えた 電車の警笛のように
長閑な天気で蠅が一匹窓硝子に取り付いた

ここから地球の隅っこの路地裏が見える
あの辺りが1丁目と二丁目の境目
その先の河原の石積みは良く見えない 
この俺を喰う者もいないと男   
女は男の下着を丸めて洗濯機に放り込むや
携帯で誰かにお昼のお刺身定食を誘っている

スリッパは見た 田中圭介.PDF 縦書き 

【関連情報】
 孔雀船は102号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

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  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
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イラスト:Googleイラスト・フリーより

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