【孔雀船102号 詩】 sinozakiジグムントだより 篠崎フクシ
更新日:2023年9月 9日
雨季をうしなった今年
かわきをいやそうと
校庭のすみに
井戸をほることにした
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ほりすすめると
水のかわりに光が湧くので
いのち綱をよくしめて
底のそこをたしかめにいく
光は生あたたかい
あかんぼうの産着のようで
やわらかだ
やがて
氷柱のような
白い円錐たちが上下にひろがると
光のさきに人の眼玉のような
ものが見えた
光のふちに手をやり
おもいきり
からだを外へともち上げる
ぬるりとした感触と
あたまをおさえつけられる
不快が好奇心にかわる
大きな人が不思議そうに
〈それ(id)〉をながめている
ふりむけば、うつろな眼をした
小さなおとこが、口をあけている
雨季をうしなった今年
かわいているせいか
校庭のすみでは
井戸から焔があがっている
だれも消すことはできない
──〈自我(ego)〉がこわれていますな
大きな人がペンチを握り
抜いておきましょう
などと言う
小さなおとこはしかし
最後の矜持をみせようと
〈それ(id)〉の導火線に火をつける
雨季をうしなった
この夏のかわきは
小さなおとこの
大きななげきでもあるらしい
校庭のすみでは
涸れ井戸をかこむ生徒たちが
〈わたし(ego)〉をこえる何者かに
いどむような眼ざしをむける
【関連情報】
孔雀船は102号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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