A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船102号 詩】 sinozakiジグムントだより 篠崎フクシ

雨季をうしなった今年
かわきをいやそうと
校庭のすみに
井戸をほることにした

井戸掘り.jpg
ほりすすめると
水のかわりに光が湧くので
いのち綱をよくしめて
底のそこをたしかめにいく
光は生あたたかい
あかんぼうの産着のようで
やわらかだ

やがて
氷柱のような
白い円錐たちが上下にひろがると
光のさきに人の眼玉のような
ものが見えた
光のふちに手をやり
おもいきり
からだを外へともち上げる
ぬるりとした感触と
あたまをおさえつけられる
不快が好奇心にかわる

大きな人が不思議そうに
〈それ(id)〉をながめている
ふりむけば、うつろな眼をした
小さなおとこが、口をあけている

雨季をうしなった今年
かわいているせいか
校庭のすみでは
井戸から焔があがっている
だれも消すことはできない

──〈自我(ego)〉がこわれていますな

大きな人がペンチを握り
抜いておきましょう
などと言う
小さなおとこはしかし
最後の矜持をみせようと
〈それ(id)〉の導火線に火をつける

雨季をうしなった
この夏のかわきは
小さなおとこの
大きななげきでもあるらしい
校庭のすみでは
涸れ井戸をかこむ生徒たちが
〈わたし(ego)〉をこえる何者かに
いどむような眼ざしをむける

ジグムントだより 篠崎フクシ.PDF縦書き 

【関連情報】
 孔雀船は102号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738
  メール teikakyou@jcom.home.ne.jp


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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