【孔雀船101号 詩】 秋のくれかた 船越 素子
更新日:2023年3月 7日
空だけではない
そのなつかしさも 空気までも
熟し始めた果物の匂いがしていた
時空が捻れていたことを
痛みが美しすぎて気づけなかった
御機嫌よう 鳩尾の痛み
果樹園のなかを 風が透過し
世界がバラ色にそまっていく
ほんの数分間の黙示
裸足で駆けだせばよかった
気をとりなおし
影踏みをする
ずっと逢えなかった
あなたの影も
からだをよせてたたむ
(避難所のまえには
ちょっとした空き地があって
気高い振る舞いをする野良猫たちが
ゆるやかなコミューンをつなぐ
戸口の正面で
かれらが扉を開くまえに
叩き潰すのが
翼をもつものたちの恩寵)
いまはただじっと
息をひそめて待つ
秋がすとーんと
漆黒の闇をつれてくるから
【関連情報】
孔雀船は101号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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TEL&FAX 042(577)0738
イラスト:Googleイラスト・フリーより