【孔雀船101号 詩】 霧の籬 青木由弥子
更新日:2023年3月 6日
くちづけはいのちをすいあげる行為だと
おずおずと舌をからませながら
立ち戻ってしまって
だからあなたは
いつも濃い霧のむこうにいるのだけれど
うすやみに浮かぶまなざしの
目じりのあたりのこまかい皺や
かたちのよい鼻すじやくちもとが
浮かんでは消える
日盛りの道を
互いに
自分だけの影を踏みながら
歩いた日
たどりついた巣穴は
幾千年の積層で壁を
埋め尽くされていて
干し草の馴染んだようなにおいの
岸辺とも島の奥深いところともつかぬ場所で
言葉の続いていく安堵に身をゆだねる
あの日の薄やみが
わきたち烈しく流れる雲の
乱れた空の下に漂っていて
丘のくぼ地で濃く溜まっている
梅の香に芯を
すすがれてゆくときのように
わたしを受け止めてくれる
霧に充たされていくのを
待ちながら
これで今日を
生きていくことができる
〒146-0085
東京都大田区久が原2‐7‐15
090‐6715‐6319
青木由弥子
Poetess21@gmail.com
詩集『星を産んだ日』土曜美術社出版販売2017年
詩集『しのばず』土曜美術社出版販売2020年
『しのばず』の帯(裏面)に、「モノローグからダイアローグへ――詩と思想新人賞から五年 あらたな境地を開く新詩集」と入れています。
【関連情報】
孔雀船は101号の記念号となりました。1971年創刊です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738
イラスト:Googleイラスト・フリーより