A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船100号 詩】  砥ぐ  中井ひさ子

川沿いのアパートの窓は

冬でも簾をかけたままだ

日暮れがまっすぐ

入り込んでくると

俺は流し台の前に立ち

いつものように
砥石と包丁.jpg包丁と砥石をとりだした


職を転々とした俺の腕に

残ったのは

包丁を砥ぐことだった


左手で押さえる包丁のはらに

女の姿が浮かぶ

何があったわけじゃない

忘れた物を

思い出したように出ていった

砥ぐ手に

隙間からの川風が

やたら冷たい

夕まぐれに

橋一つを違えて渡って行ってしまったか

橋を渡ったらもう帰ってこないだろう


鋭くなる刃先が少しずつ
鈍い怒りに変わっていく

包丁を研ぐたび女を思い出すのか
女を思い出すたび包丁を研ぐのか
今はもうわからない


227−1 砥ぐ(中井.pdf


【関連情報】

 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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