A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船100号 詩】 ロクの来る日 (「詩篇たどりつけない」のためのエスキス) 脇川郁也

日だまりで毛繕いするロク

黒くまるまると太った野良だ

見慣れた景色の中にあるきれいな空が

クロネコの背にも乗っている

黒犬.jpegロクの匂いを嗅ぎつけてか

お向かいに住むビーグル犬のソラちゃんが

けたたましく大きな声で仕事をする

夏みたいな日差しと回る風がさわやかな日


鼻先の白い毛が漱石の髭に似ていて

妻はロクを白ひげと呼んでいる

隣家でおやつに呼ばれるときは

ホワイトソックスの名で通っている

ロクの名とてぼくが勝手に付けたものだから

だれもほんとうのロクに出会うことはない


風が回っている

うっすらと汗ばむ肌を撫で

立ち尽くす木々のあいだをめぐり

消滅への道をただまっすぐに

ためらいながら進んでいく


もう一匹

つきの悪い黒い野良猫がいて

ときどきうちの庭を横切っていく

髭もないし白い靴下もはいていないから

そいつを

ろくでもない猫

と呼ぶ

口からもれる頼りないことばが

かよわい手ざわりだけを残している


ロクが来た日は

何かいいことがありそうな気がして

中空を見上げてみるけれど

彼岸に吹きわたる風が

気配を消してただ回っているだけ

いつまでたってもぼくの声は届かず

どこまで行ってもたどりつけない


そこらじゅうにいる黒い猫は

帰る家を忘れてしまったロクとぼくだ

むかしに見送った小さないのちも

初夏の緑の中でころころとはしゃいでいる


PDF・縦書き ロクの来る日(脇川.pdf


【関連情報】

 孔雀船は100号の記念号となりました。1971年に創刊されて40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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