A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船99号 詩】 思い出集め  望月苑巳

公園で孫とキャッチボール

鬼ごっこ

かくれんぼ

家では誕生日のケーキの上の蝋燭を吹き消す

(何だか命の灯を消すみたいで悲しい気分になるが、本当のことは誰にも言えない

お正月、普段顔を見せない娘夫婦が

birthday-cake 2022.2.14.pngこぞって笑顔を持ってくる

(作り物でないことを祈ろう

そんな時、ビデオで撮っておきたいと思う

ビデオならいつでも再生できるから

(ただ、ビデオには心まで映らないから残念だ

友人が訪ねてくる

スリッパを出す

たくさんの人を招き入れたスリッパだ

匂いがつけば鼻つまみものにされ

ボロボロになれば即お役御免

それまでは文句ひとつ言わず

どんなに臭い足で

穴の開いた水虫たっぷりの靴下も

受け入れてきた可哀想なスリッパよ

お前も思い出集めの仲間になりたくはないか

そうだお前こそ家族の一員だった

ビデオの主役になる権利がある

だからこっそり撮っておこう

孫たちから文句が出ようが

消去しはしない

(そう決めたのに今朝起きてみるとスリッパラックにお前がいない

妻に問えば「昨日、ごみに出したわよ」

思い出集めの終楽章はいつもこんなに

たわいなく残酷だ


思い出集め (1).pdf


【関連情報】

 孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
  発行所 孔雀船詩社編集室
  発行責任者:望月苑巳

 〒185-0031
  東京都国分寺市富士本1-11-40
  TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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