【孔雀船98号 詩】 穴のあいた靴 小松宏佳
更新日:2021年7月28日
この底に穴のあいたくつは四年生のころ国立駅で
買ったくつです。五年生になるときつくなったの
でくつしたをぬいではくようになりました。その
せいで夏はあつくなったコンクリートに足がふれ
ていたくなったり冬は雪などが入りしもやけにな
ったりしました。 二組 小松玄汰
画用紙に書かれた詩のしたに
柔らかくゆがんだ黒い運動靴の絵があった
息子がこれを持って帰ってくるまで
この靴のことをわたしは知らなかった
靴底を見ておどろいた
直径四センチくらいの穴だ
あわてて買いに走った
こういうことを言わない子供なのだとわかった
言われないと気づかないわたしだとわかった
彼の足の哀れだけを見て
靴を処分したら彼はとても残念がった
穴も好かれて広がっていったのだ
小人のせいだろうか
低学年のころまで
猫が路上でごろんごろんするのを真似て
路上でぐるぐる転がったり
お店でなにを聞かれても
「にゃおー」としかこたえなかった彼の国には
靴屋の小人やまねっこ小人が住んでいた
絵のまえで小人が咳払いをすると
絵の靴はひとりごとのように言ったのだ
おれはね、脱皮の皮なんだよ。
関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
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イラスト:Googleイラスト・フリーより