A040-寄稿・みんなの作品

頼りの車だが   廣川 登志男

「たまには、中の島大橋の公園でも行ってみようか」
「あら、呑気なこと言ってるわ。バラで忙しいのよ。だけど天気も良いし、たまにはワンコを連れての散歩も悪くないわね」

 こうして年末の小春日和のなか、いつものように「キャンピングカーもどき」の車に一家総出(夫婦二人とワンコ2匹)で乗りこんで、西に開けた木更津港に設けられた、赤い橋桁のきれいな大橋へ向かった。

 今では、主人の私と同じように耳が遠く足下もおぼつかない老犬の「イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル」という長い名前の犬種である「ジャン」と、喘ぎながら高さ27mの橋をなんとか渡りきった。


 港に聳えるこの大橋が有名になったのは、「木更津キャッツアイ」というテレビドラマによるものだった。
 2002年に放映されたもので、現在では、このドラマ上の伝説が実際に話題となり、「恋人の聖地」に選定されている。今でも多くのアベックがこの橋を渡っている。我々もワンコ連れのアベックとなって散歩を楽しんだ。


 帰ろうと大橋の頂上に差しかかると、富士山の黒いシルエットがひと際はっきりと夕日に浮かび上がっているのが目に入った。

「西に富士山があるのは知っているけど、どのくらいの西なのだろうね。まさかぴったり西にあるとは思えないけどね」
「そうね。富士山が噴火したら、偏西風の影響で木更津にも相当な被害がでるって聞いたことがあるけど、あまり西にぴったりだと嫌だわね」
 興味がわいて、自宅と富士山の位置関係を調べてみたくなった。



 富士山の位置を、山頂の最高峰である剣ヶ峰とした。ここは北緯35・3607度にある。自宅は北緯35・3575度なので、富士山からみて緯度で0・0032度と、ほとんどゼロに近いところに位置する。

 これほどまでぴったりの東にあるとは想像もできなかった(byグーグルマップ、下7桁計算)。

 この角度差を距離に換算するには、35度付近の地球の半径6370kmに角度差0.0000559ラヂアンを掛ければよい。
 答えは南にたった363m離れたところが自宅となる。驚くほど富士山の真東に自宅が位置していることになる。
 363mというと、歩いて5分ほどの距離だ。同じように、東西方向の距離を計算してみると、自宅と富士山は134km離れていることがわかった。

 これほどまで我が家が富士山の真東にあるということは、富士山噴火時の灰が偏西風に乗ってまともに我が家に到達することになる。


 その影響を調べると、2004年6月に報告された「内閣府 富士山ハザードマップ検討委員会 報告書」に詳細に記載されていた。木更津近辺の降灰厚さは10センチ程度となっている。
 これによる影響は、道路・鉄道・電力・水道・下水道・建物・人体 等、多くの住環境に及び、実生活に支障を来すことが記されていた。

 噴火の前提になっているのは、1707年12月の宝永大噴火である。その規模の噴火を前提にしたシミュレーション結果では、80キロほど離れた横浜でも時間あたり1~2ミリ程度の断続的な降灰があり、最終的には10cm程度積もると予想されていた。

 木更津でも同様な降灰が想定され、最終的には8cm前後積灰するとの結果がでていた。

 この程度の厚さでも被害は甚大で、過去データを元にした影響の度合いは、道路では5cmも積もると10キロ以下の速度でも危ないし、10cmでは走行不能に陥る。加えて降雨があれば3cmでも走行不能とのことだ。

 鉄道ではレールに3㍉も積もると走行不能になるし、電力においては3㍉程度の積灰に雨があるとショートして送電不能となる。

 建物も10cm程度の積灰で平米あたり100キロの重さとなるため、木造はもとより、大屋根の体育館などでも倒壊の危険が高まると言われている。降雨が加われば「推して知るべし」なのだ。

 遠い富士山の噴火と侮ることはできない。真東の木更津は、本気になって災害対応の施策を検討しなければならないのだろう。
 専門家によると、富士山噴火は過去のデータから、近い将来高い確率で起こると予測されている。


 こうしてみると、現在の「コロナウィルス災厄」に加え、関東大震災、東海地震、くわえて可能性のある「米中戦争(+尖閣日中衝突)」などの人災も含めると、いかに対策を講じる必要性が増しているかをひしひしと感じてしまう。
 
 大きな災害が発生しても「キャンピングカーもどき」の愛車で、ワンコも入れた全員でただちに遠くに逃げれば問題ないと考えていたが、そんな悠長な考えは捨てなければならないのかも知れない。
 だとすると何を準備すれば良いのか。まったく見当がつかない。


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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