【孔雀船96号 詩】 床屋で 松下育男
更新日:2020年8月 8日
お客さん
ウチの犬が生きていたときにね
どうしても面倒をみられない時には
おふくろの所に時々
預けていたんですよ
おふくろ
はじめは面倒くさがっていたんですけどね
だんだん
可愛がるようになってくれて
引き取りにいくと
ずいぶんさびしそうな顔をするように
なってきたんです
それでね
こないだ話をしたように
犬が突然死にましてね
もちろんおふくろも
ひどく驚いていたんです
でもまあ
仕方がないかと
思っていたんですけどね
こないだおふくろが
電話をかけてきて
「一晩犬を預からしてくれないか」って
言い出したんです
あっ
これはまずいなと
思いましてね
だって
ウチの犬が死んだことを
知っているはずなんですよね
だから
とうとうおふくろ惚けたかなと
覚悟をしまして
来たら様子を見て
病院に連れて行こうかと思っていたんです
それでね
来ました
来たんですけどね
おふくろ
犬の骨壷と写真を大きな袋にいれて
さっさと帰って行ったんです
翌日
返しに来ましたけどね
一晩
骨壷と一緒にいたんだなと
思いましてね
それで何をしていたんだろうと
思いましてね
一晩で
いいのかなと
思いましてね
たまらなくなってきたんですよ
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
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