【寄稿・詩】 卒業電車 ☆神山暁美☆
更新日:2020年6月16日
山のふもとにある ちいさな町の小学校
授業と授業のあいだの休み時間に
毎日きまって赤い電車が走ってくる
あすは卒業式 六年生はさいごの授業
「つぎの休み時間は校庭に集まってください」
担任の先生のことばがチャイムにかさなる
でも みんなは集合の理由(わけ)を知らない
ウィーンウィーン ガタゴトガタゴト
いつもの電車が菜の花をゆらしやって来た
先頭(せんとう)の車両に運転手と もうひとり
紺(こん)の制服・制帽(せいぼう) 真っ白な手袋(てぶくろ)で敬礼をして
在校生もふり向くような まのびした警笛(けいてき)
止まりそうなほどゆっくりと電車が通る
その窓のひとつひとつに大きな文字が
「祝 卒 業 ・ 夢 の 実 現」
白い手袋はこの小学校の卒業生
若かった校長先生が始めて送り出した
「電車の運転手になる」と約束した男の子
いま この町の駅長さんになっている
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神山暁美さんのプロフィール
岐阜県大垣市生まれ
詩誌「那須の緒」同人
栃木文芸家協会 会員
日本ペンクラブ 会員 電子文藝館委員会・委員
詩集「卒業電車」 定価 1500円+税
問合せ先 : オフ出版
〒250-0124 神奈川県南足柄市内山772
☎ 0465-72-0033