【寄稿・詩集「未完の風景」より】 天使のはしご=神山暁美
更新日:2020年4月 3日
雨雲のきれ間から
天と地をむすんで光がおりてきている
そこだけ ひときわ鮮やかな彼岸花が
あぜ道を滴ってこぼれていく
フロントガラスの隅に
貼りついたままのぬれ落ち葉 ひとつ
カーラジオから流れる
昭和の歌を聴いていた助手席の父が
とつぜん思い出したように口をひらく
「五島・福江島沖を航行中
東方の上空に
妖しい火柱がたつのを見たんだ」 と
ヒロシマの朝が裂けた日から三日後
船渠(ドック)入りしていた駆逐艦が
ナガサキの港を離れて間もない頃という
父の記憶のおわりを占めている
あの年の夏の風景が
ワイパーの残した
扇形にひろがるこの視界と
どのように重なったのか
天使のはしご かわいい名をもつ光線は
さらに幾すじもおりてきて
つぎつぎと棚田を照らしだしている
稔りの波を黄金色に輝かせながら
『詩人・神山暁美さんの略歴』
岐阜県・大垣生まれ
1988年 詩集『花思愁』 (私家版)
1989年 詩集『風詩集』 (私家版)
2001年 詩集『糸車』 (青肆青樹社)
2011年 詩集『ら』 (青肆青樹社)
詩誌「こだま」に寄稿
栃木県文芸家協会、日本ペンクラブ 会員