【孔雀船 95号 詩】 源氏車 紫 圭子
更新日:2020年2月17日
    黒い地あきの大島紬
白い糸が黒地とかさなって
かすかに銀ねずみの光沢を浮き上がらせる
柄のぼかし模様 日輪のような
牛車の輪を三つ置いた柄が飛び石みたいに浮かんで
その濃淡の距離がこころをひろげにくる
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(源氏車の芯から八本骨の輻が放射状に円をささえているかたちです
でも八本骨の一つがぼかして消えているのでそこに接する円もみんな
欠けています
そのひとの眼の奥には夕陽が映っていた
糸を織りながら
夕陽に車をかさねていたのだろう
この世の車争い
諸々の六条御息所と葵の上の車たちを
欠けた模様の入り口から夕陽に吸いこませて
そのひととわたくしは
遥かな
轍の
水脈を手繰りよせては
眺めている
黒い地あきの大島の
裏地は赤
袖を通すと
島唄がひびいてくる
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
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イラスト:Googleイラスト・フリーより
