【孔雀船 95号 詩】 愛しきもの 藤井 雅人
更新日:2020年2月17日
舞妓が歩く
こともなげに 街路のうえを
二十一世紀の思いを煩う人々にまじって
数百年を跳躍して
なにげなく現在(いま)によりそう舞妓
老いた楠のかたわらに立つ時
彼女は木とおなじ齢になる
花簪はいつしか解け
花びらは宙の迷路をたどり
時の川を流れる花筏に舞いこむ
春の花 風 せせらぎ
あらゆる永久(とわ)に愛しきものらと結託して
たち現れる彼女を どのように迎えようか
だらりの帯の揺れの
柳の枝のようなあてどなさを称えようか
しかし どんな無粋な賞め言葉にも
彼女は白くきよらな面を背けるだろう
――舞妓はただの舞妓どすえ と囁きながら
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
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