【孔雀船 94号・詩】 水性の夜 船越素子
更新日:2019年8月23日
一番星がのぼって
教え子が物語をとどけに来た
うつくしい夕暮れの風とともに
静かにてわたす
物語も静かに
静謐な室内で綴じられる
暴発も 諍いも 騒乱も
ここでは
何もかもが
呼吸の音も消えいるように
霧散していく
送り出された
ふたりの少年は
はるか時空をこえ
彼らのスペースシップがすれ違い
たがいを呼びあう
彼女の物語は
痛ましいほどに美しい
やさしい人々が
やさしさの傷を負い
レモン水のかけられた
かきごおりのように溶ける
水性の夜の
再生や降臨が
その先にあるのか
誰もとわない
だから ゆっくり
ページを繰る
あたたかな飲み物と
膝掛けを用意し
ひとり
星降る夜の
星をさがして
教え子に届けようと
思いついたのだ
『ALLO:ALLO』(フナキトキコ著 北方新社)によせて
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
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