【孔雀船 94号・詩】 心の時計 望月苑巳
更新日:2019年8月23日
誰が作ったのかブリキの風見鶏が
曇天にふらちな時計台
つらくなって首に縄をかけたぼく
窓から見えるのは
カラカラと死にそうな音を出して
目を回している無様な姿でした。
母さん、知っていましたか
この世で一番小さな時計は
まだ生まれていない赤ちゃんの心臓だと、
寺山修司という高名な詩人が言ったということを。
どきどき分針がよれると
カチリと合うはずの世界もよれてしまうのです
そのせいで平和の時を刻むのも
戦への道を刻むのも
この二つの針の仕業にされてしまったのです
ただ文字盤に刻まれた記憶だけが
赤ちゃんの心臓と共鳴して。
キナ臭い国になってしまったのに
母さん、ぼくにくれた鼓動をありがとう。
この心の時計は
幸せになるために使います
だから首の縄は外すことにします
母さんの時計を大事にするために。
【関連情報】
孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。
「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳
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東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738
イラスト:Googleイラスト・フリーより