A040-寄稿・みんなの作品

【孔雀船 94号・詩】 心の時計   望月苑巳

誰が作ったのかブリキの風見鶏が

曇天にふらちな時計台

つらくなって首に縄をかけたぼく

窓から見えるのは

カラカラと死にそうな音を出して

目を回している無様な姿でした。


母さん、知っていましたか

この世で一番小さな時計は

まだ生まれていない赤ちゃんの心臓だと、

寺山修司という高名な詩人が言ったということを。


時計台がどろりとかしいで

どきどき分針がよれると

カチリと合うはずの世界もよれてしまうのです

そのせいで平和の時を刻むのも

戦への道を刻むのも

この二つの針の仕業にされてしまったのです

ただ文字盤に刻まれた記憶だけが

赤ちゃんの心臓と共鳴して。


キナ臭い国になってしまったのに

母さん、ぼくにくれた鼓動をありがとう。

この心の時計は

幸せになるために使います

だから首の縄は外すことにします

母さんの時計を大事にするために。


心の時計 望月苑巳・縦書き PDF


【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

イラスト:Googleイラスト・フリーより

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