A040-寄稿・みんなの作品

【寄稿・(孔雀船)より】 七夕の夜、ある抱擁についての考察 望月苑巳

偽善たっぷりの
七月の抱擁をほどくと
想い出もほぐれてしまう
織姫と彦星はそそくさと背を向けあった
つかの間の逢瀬も
些細な嫉妬から誤解が生じるものだし
億年続けていれば、そりゃあ誰でも飽きるというものさ

二人の仲の懸け橋だった銀河の水も冷え切って、ジャブジャブと億光年先にまでこぼれた。四月にはさくらを省き、四月のいのちを省き、日本の四月のさくらのいのちを省いたせいで、こうして朝から忙しい一日が始まった。

「この世界はどうしてこんなに息が詰まるのか」
まるで人生って
溜息からできているみたいだと
牛を追いながら彦星が嘆いた
二人の仲を取り持った
白鳥座が恨まれた
傍観していた蛇つかいは
蛇を逃がしてしまったとこぶしを上げている
そのせいで水瓶座の水がこぼれて
織姫は着物の裾を濡らしたが笑顔は絶やさなかった
「息苦しいのは他人の顔色ばかり窺って生きているからよ
溜息は希望のかけらだと思ってごらんなさい」

織姫よ、彦星よ、そんなさくらを省いた日のことを覚えているか。いのちを省いた日を思い出してみるか。どんな小さな溜息でも、するだけの理由があるのだよ。
抱擁もまた同じ、してみるだけの価値があるのだよ。億年の、また億年先に続いていても、その価値は偽善さえ飲み込んで、七夕の、真実という繭にくるまれてしまうのだよ。

繭の眠りから覚めたら、また抱擁をするがいい
きっと新しい永遠が始まる。


イラスト:Googleイラスト・フリーより

【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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