寄稿・みんなの作品

【寄稿・(孔雀船)より】  刮ぐ 吉本洋子

夕食の牛蒡を刮ぐ
包丁の背を当てて薄く皮を刮いでいく
踵の角質を削る
薄刃の剃刀を固くなったそれに添わせ削っていく
大切なものは皮と身の僅かな隙間に潜んでいるものを
刮ぎ 削り 剥ぎ 晒し
いっそ皮など刮がずに丸ごと喰えばよいものを
いっそ踵ごと削り落としてしまえばよいものを
灰かぶり姫の意地悪な姉のように
今夜の牛蒡のきんぴらは美味しい
むかし話は真実で美味しい
深夜 身体の至る所が意固地な生き物に


夜更かしをする
林檎の皮を剥く
騙されている気がする
赤く生る実の中の実は赤くなくちゃ 
せめてしらしらした薄い血の色に似た実でなくちゃ
よく研がれたナイフで
指と指と指の間の皮を剥く
血は一滴もこぼしてはならぬ
実に実の色以外の実を見せてはならない
剥かれた皮は薄いほど残される実は美しい


嫌がる子供達のために
下処理は済ませたけれどまだ血生臭い
定年退職をした男が親族から
祝いごとめいて喰われる小説を読んだことがある
一番大事な部位は冷蔵庫にと小姑から囁かれていた
それを喰らうのは妻の証
食感を楽しんでと意味ありげに片目を瞑る
牛乳に漬けると臭みが消えるとレシピに書いてあった
カレー粉をまぶして油で揚げる
鉄分補給には一番 
学校給食にもよく出るわ
放課後のチャイムが鳴り終われば
妻の証をやすりに掛ける
なめらかにすべらかに柔らかな生き物に


             イラスト:Googleイラスト・フリーより

【関連情報】

孔雀船は1971年に創刊された、40年以上の歴史がある詩誌です。

「孔雀船」頒価700円
発行所 孔雀船詩社編集室
発行責任者:望月苑巳

〒185-0031
東京都国分寺市富士本1-11-40
TEL&FAX 042(577)0738

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