A040-寄稿・みんなの作品

【寄稿・エッセイ】 藤の花見物=里山 景

【作者紹介】
 里山景(さとやま けい)さんは読売日本テレビ文化センター・金町「公募のエッセイを書こう」の受講生です。エッセイ歴は十年余です。旅エッセイ、日常エッセイを得意としています。


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藤の花見物 文・里山 景

 
                      


 2年前のことだった。都内で、『丸の内フラワーウイーク2009』が開催されていた。「足利フラワーパーク」の園長さんは女性樹木医の第1号といわれて、藤をバックにしたコマーシャルのテレビに出ていた。園長さんの講演が新丸ビルで行われるというので、私は聞きに行った。

 園長さんは背のスラリとした、藤の花のように美しい人だった。藤の花が、フラワーパークで見事に咲いていることを知った。藤は1度に咲いてしまうのではなく、薄ピンク、紫、白、黄色、と順々に咲いていく。
 5月17日までは藤祭りをしている。夜9時までライトアップをしていると語っていた。

 ぜひ、藤の花を見てみたい。思い立ったらすぐ実行。5月の連休明けに、友の運転する車で出かけた。よほど有名なのか、観光バスが連ね、乗用車も多く、周辺の道路は渋滞していた。広い駐車場は満車で、係りのおじさんが交通整理をしていた。
 
 どうにか車を止めてから、入場券を買って園内に入った。少し歩くと、幹がくろぐろとして 太い藤の木があらわれた。パンフレットに記載されているように、600畳敷きの藤棚には80センチの花房が垂れている。樹齢は140年とのこと。

 しゃがんでみたり、離れてみたり、厚い厚い藤の花のカーテンだ。{キャッホー」「ワンダフル」「ダイナミック」と思わず声がでてくる。なんと幻想的な世界なのだろう。

 これだけではなかった。しばらく行くとまた、600畳じきの藤棚が2つ対になって並んでいる。樹木医の腕のよさが感じられ、よくもこんなにも立派に育てられたものだと驚かされた。


 私はふと出かけ間際の夫婦の会話を思い出した。
「足利のフラワーパークへ藤の花を見にいってくる。」
 と、夫に言ったら
「何も銭をかけて、栃木の田舎まで行くのはバカがすることだ。亀戸天神の藤は素晴らしいぞ。そこへ行ったほうが利口だぞ。」
 と憎らしい返答があった。

 今度は白藤のトンネルだ。80メートルも続いている。前を向いても、後ろを振り返ってみても、白1色に包まれた、すがすがしい世界だつた。そこを通る人の顔、顔、顔、皆は幸せそうないい顔をしている。バージンロードを歩いているような気分だ。

 八重咲きの藤棚もある。これも立派なぶどう棚のように丸い花で、とても珍しいと聞いた。むろん、私は始めてみた、感動すべき光景だった。
 あいにくの雨模様で、到着して1時間後には小雨が振り出した。

 黄色の藤はつる性ではなく、木の種類でキングサリという名前だ。これもトンネル状だが、若い木なので、穴だらけのトンネルである。生育すれば、素晴らしいものになるだろう。

 雨の降りが強くなってきた。屋根のある、お土産売り場に入った。広い建物は人でごったがえし、迷子になりそうだ。
 気持ちの持ちようだ。晴天ならば、大勢の人ごみで、砂埃が大変だったろう。あいにくの雨だったが、しっとりといい気分にひたることができた。
 同パークは手入れが行き届いている。クレマチス、しゃくなげ、黄色のぼたんなども色よくおおらかに咲いていた。


 感動を胸に帰宅すると、私は夫の眼の前に、おもむろに、お土産の藤まんじゅうとお茶を差し出した。
「亀戸天神の100倍も、1000倍も素晴らしいかったよ」
 と夫にそう言ってやった。


                                  写真提供:滝 アヤ             

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