A040-寄稿・みんなの作品

フランスのTVで見た、日本の終戦=寄稿作品

フランスのTVで見た、日本の終戦]

                     久保田雅子

 フランスの夏は、日の暮れるのが遅い。夜9時過ぎから、だんだん暗くなっていく。2007年8月15はまだ夕暮れ前で、西日がまだまぶしかった。
 私は夕食をとりながら、フランス国営テレビのニュースを見ていた。番組はやがてドキュメンタリーに変わった。それまで何気なく見ていたテレビだが、思わずその画面に釘付けになった。

 映像は1945年9月2日の東京湾横須賀沖だった。私はみたこともないような大きな軍艦だった。高い塔と太く長い6本の砲台が備わる、<戦艦ミズーリ号>だった。艦上にはアメリカ兵に囲まれた、日本人数名が現れた。

 字幕によると、重光葵(しげみつまもる)外相、陸軍大将梅津美治郎、岡崎和夫だった。3人はシルクハットにモーニングの正装で、他の6人は軍服姿である。日本人はとても緊張した表情で並んでいる。
 降伏文書に調印する前だ。アメリカ兵たちは白い海軍服で、艦上の塔の上まで鈴なり。歴史的な一瞬をみている。

 重光(外相)が岡崎に付き添われて、大きな紙にサインした。それが終わると、梅津が眉間にしわを寄せ、怒ったような表情で重光になにか言っていた。

 国営放送の画面は、降伏文書に調印後に移った。それは終戦直後の日本だった。戦火の焼け跡には路面電車と馬車が並んで走っている。横浜の街には黒こげのビルの立ち並ぶ。アメリカ兵のまじった銀座通り。船から兵士が次々降りてくる舞鶴港。大きな袋を背負った人々でいっぱいの闇市。日比谷公会堂の音楽会の看板(9月6日藤原義江、東海林太郎他出演)などが順次、映し出されていく。

 さらには、皇居の室内の昭和天皇と並ぶサングラスをかけていないマッカーサー元帥、バルコニーから帽子をふる昭和天皇、その横でおっとり微笑む皇后様などが映し出されていた。

 ナレーションは英語で、フランス語の字幕だった。アメリカの製作フィルムのせいか、最後まで原爆にはまったく触れないで、番組は終わった。

 8月15日はフランスではカトリックの祝日で、聖母の被昇天の祭日てある。フランスの第2次大戦終戦記念日は5月8日だ。なぜ、休日のゴールデンタイムに2時間も、日本の終戦記念日のようなドキュメンタリーの放送をしたのか、それが不思議だった。【了】

 (写真提供=久保田雅子さん、フランス国営放送のTVより)

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