A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

待ち時間 = 筒井 隆一

 築地の朝日ホールで、高木綾子のフルート演奏を聴いた。昼の時間帯に、親しみやすい小品を集めた、ランチタイムコンサートでのことだ。
 隣接したレストランで昼食を済ませた後、新宿に廻る家内と別れた。まだ2時半だ。夜にも、国立小劇場で邦楽の演奏会があるので、6時には半蔵門まで行かなければならない。その間、どのように過ごそうか。家に戻る時間はあるが、着いてもすぐに出直すことになる。思いがけず時間ができて、それをどのように過ごすか、迷う時がある。

 好きな音楽を聴いたり、絵画をゆっくり鑑賞して、のんびりゆったり過ごすのも、一つのやり方だ。しかし、もともとせっかちな私は、悠々と過ごすのは時間の無駄使い、と思い込んでいる。のんびりは、性に合わないのだ。ぼんやりしていないで、密度の濃い過ごし方をしないともったいない、という思いがある。

 人と約束して、待ち合わせの場所に早めに着いた時、それが2、30分であれば、本屋での立ち読みや、コーヒーショップでお茶を飲んで、時間調整をする。今回のように、少しまとまった時間が思いがけず出た時、今までは近所の庭園を散策したり、美術館に出向くことが多かったように思う。ここ築地は、浜離宮恩賜庭園にも近い。汐留には、パナソニックミュージアムがある。さて、どうしよう。

 時間に合わせ、その都度、効率よく的確な対応をするには、常に正確で、幅広い情報を持っていなければならない。

 スマホで検索すれば、どこの美術館で、特別展がいつからいつまで開催されているか、主な出展作品、開催時間、休日、美術館までの道順などの情報が、確認できる。また、周辺には、どのような庭園があるか、すぐ調べられる。
 ただ、その日の体調、天候、時間帯、同行者の好みなど、と合わせた幅広い情報で行動を決めるのは、自分の判断だ。スマホだけでは決められない。

 例えば、あの庭園はこぶしの花が美しい。その最盛期は四月始めで、園内の北側にまとまって咲いている。また、今の時間だと、あの美術館で特別展はみられるが、好きな作品がある常設展も併せて見るだけの時間はない。同じ料金なら、常設展まで見ておきたい、など。
 智慧を絞って、短時間にこれらの情報、条件を組み合わせて対応することは、なかなか面白い。


 過去を振り返ると、スピード第一、効率第一のサラリーマン生活を、長く送ってきた私だ。これからの人生は、豊かにゆとりをもって、生きていけばよいのではないか。無理をすることはない。頑張る必要はないのだ。
 せっかちを少しだけ修正し、待ち時間は、のんびり、ゆったり過ごせるようにしたい。
 今日は快晴、浜離宮庭園に向かってスタートした。満開のこぶしの花を、ゆっくり、のんびり楽しもう。


                    イラスト:Googleイラスト・フリーより

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