A025-カメラマン

初秋の上高地に魅せられて叙情を写す=(上)

 秋のひと時を、槍ヶ岳に登った仲間の下山を待ち、叙情にみちた上高地で過ごす

 梓川のせせらぎの音を聞きながら、雲と光にこころを染める


 拙著「燃える山脈」は、10代の美麗な岩岡志由が主人公である。今、ここ上高地によみがえる。

 作品は、200年まえの焼岳越えの、飛州新道が舞台である。

 きょうの焼岳は上高地に坐して、その峰は光り輝き、天に聳(そび)え立つ。


 湯屋の若女将の志由も、この道を通っただろう、。

 肌寒い高地の上高地にも、愛の光がさすのだろうか。

  

 高原の白樺路は、200年前に、岩岡家がつくった伴次郎街道だった。 

 山想う若い男女が連れ立って、これから舞台となった山岳に登る。


 
 運命というか、生い立ちというべきか、苦節を背負った志由は、上高地の湯屋に入り、穂高神社の嶽の神に祈る。

 あしたが見えない日々を送る。

 信じれば、前途に活路が見いだせるのか。
 

 

 志由と伴語がありし小舟で遊ぶ。

 ふたりの心には、明日への夢があった。

 高山の雨は細く、深遠にして、神秘な池面にかすむ。



 台湾の若き人たち。とたんに、現代に気持ちが戻ってしまった。

 異国の垣根はなくなり、いまや地球はひとつにありきかな。
 
 

 うす雲の下で、ふたたび『燃える山脈』に気持ちがむかう。

 神秘な湖面には、木の葉が浮かぶ。

 この池で、恋するふたりはなにを想う?

 


 静かな曇り日。穂高連峰は雲にかくれながらも、日ごと、秋のススキの穂を盛りにしている。

 ……、2年間に及ぶ、『燃える山脈』の執筆をふり返る。実在の志由をいかに魅力的に描くか。異性を主人公にした心理描写はとてもむずかしい。

 取材協力者があってこそ、生まれた小説だ、と感謝している。
 
 

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