初秋の上高地に魅せられて叙情を写す=(上)
更新日:2016年9月16日
秋のひと時を、槍ヶ岳に登った仲間の下山を待ち、叙情にみちた上高地で過ごす
梓川のせせらぎの音を聞きながら、雲と光にこころを染める
拙著「燃える山脈」は、10代の美麗な岩岡志由が主人公である。今、ここ上高地によみがえる。
作品は、200年まえの焼岳越えの、飛州新道が舞台である。
きょうの焼岳は上高地に坐して、その峰は光り輝き、天に聳(そび)え立つ。
湯屋の若女将の志由も、この道を通っただろう、。
肌寒い高地の上高地にも、愛の光がさすのだろうか。
高原の白樺路は、200年前に、岩岡家がつくった伴次郎街道だった。
山想う若い男女が連れ立って、これから舞台となった山岳に登る。
運命というか、生い立ちというべきか、苦節を背負った志由は、上高地の湯屋に入り、穂高神社の嶽の神に祈る。
あしたが見えない日々を送る。
信じれば、前途に活路が見いだせるのか。
志由と伴語がありし小舟で遊ぶ。
ふたりの心には、明日への夢があった。
高山の雨は細く、深遠にして、神秘な池面にかすむ。
台湾の若き人たち。とたんに、現代に気持ちが戻ってしまった。
異国の垣根はなくなり、いまや地球はひとつにありきかな。
うす雲の下で、ふたたび『燃える山脈』に気持ちがむかう。
神秘な湖面には、木の葉が浮かぶ。
この池で、恋するふたりはなにを想う?
静かな曇り日。穂高連峰は雲にかくれながらも、日ごと、秋のススキの穂を盛りにしている。
……、2年間に及ぶ、『燃える山脈』の執筆をふり返る。実在の志由をいかに魅力的に描くか。異性を主人公にした心理描写はとてもむずかしい。
取材協力者があってこそ、生まれた小説だ、と感謝している。