元気100教室 エッセイ・オピニオン

こころに残るゴルフ

 4月初旬、福岡のゴルフ場から年会費の請求書が届いた。
 私は、主人の帰函以来、諸手続きに追われゴルフ場のことなどすっかり忘れていた。早速、主人の退会手続きをとるのと同時に、17年間預けていた主人と私のゴルフバッグを送り返してもらった。

 そのゴルフ場は、海沿いの美しい松林に囲まれたフラットなコースなので、高齢者向きであった。私達夫婦は東京に戻ってからも、年に5~6回は福岡でゴルフを楽しんでいた。

 手続きの4日後に戻ってきた二つのバッグの中には、それぞれのクラブに私の手作りの名入りのカバーが被せてある。なんだか懐かしかった。だが、主人のはもう使うことはないのだと思うと、少し寂しくもあった。と同時に、楽しかった思い出深いシーンが、私の脳裏をよぎった。


 その一つは、家族ゴルフである。

 ある時、社会人になってまだ日の浅い次男が、福岡の私宅に帰ってきたので、当時、福岡に在住していた私の父を誘って、親子三代のゴルフをしたことがあった。
 その日は、五月晴れの絶好のゴルフ日和であったことを覚えている。

 ゴルフを始めて間もない次男は、とにかくよく飛ぶが、右に左に忙しい。80代の父は、飛距離はなくともグリーン周りでは、熟練の技を見せてくれる。
 スポーツが苦手な主人は、仕事柄しかたなく始めたゴルフだが、その性格のように着実にボールを運んでいく。そして、スポーツが得意な私は、女性としては「飛ばし家」であった。そのため女性用のティーではなく、レギュラーティーから打つのだった。

 ただ、このコースには、私にとって一つの苦手なホールがあった。

 それは、大きな池越えの左ドッグレックのロングホールだ。女性用のティーは池の向こう側に設定されている。しかし、レギュラーティーから打つ私は、目一杯ドライバーを振るしかない。何度も池ポチャを経験した。

 この日、主人と私は何とか池をクリア。一番飛ばす次男が池ポチャ。父の一打は池の淵に当たって、フェアウェイに跳ねた。
 お互いに助け合いながら親子三代のゴルフは、とても楽しかった。スコアが一番良かったのは、経験豊富な父だった。
 父は、孫とも一緒にゴルフを楽しめたことを、とても喜んでくれた。父の笑顔を今も思い出す。しかし、その後、親子三代のゴルフは二度と実現することはなかった。


 そして、もう一つは、主人の大学の教職員のゴルフ大会に、私も初めて参加した時のことである。私の他にも教授夫人が二人ほど始めて参加されていて、女性は8人であった。

 いつものコースなので、私は何も不安はなかった。私の組は、年輩の教授と事務長、それに若い助手と私である。主人は別の組である。

 女性は、「女性用のティーから」とのルールなので、私はいつもと違ってクラブの選択に迷った。出だしは良くなかったが、だんだん距離感がつかめてきた時、あの大きな池越えのホールにきた。女性用のティーは池の向こう側にある。

 私は、池を越す必要がないのである。

 男性群が、池越えを打ち終えた後、急いで先に行って女性用のティーから思いきりドライバーで打った。すると、グリーン手前近くまで飛んだのだ。
 結局、パー5のホールを2オン1パットで上がったのだった。イーグルである。初めてだった。いつもは、パーで上がるのが「やっと」だったのに。「池越え」という精神的なプレッシャーが、無いことの影響の大きさに我ながら驚いた。


 年輩の教授は、やはり着実なプレー。事務長は実力派。若い助手は次男と同じタイプ。四者四様の楽しいゴルフだった。

 そして、笑顔で終了した後、表彰会場に入った時である。突然大きな拍手が湧いた。
「奥さん、優勝、おめでとうございます。」
「エッ。」私は驚いた。

 その日は、女性用のティーから打ったお陰でいつもより少しはスコアがいいが、優勝する程ではないはずだ。すると幹事が説明してくれた。
「初めての参加者は、ハンディキャップが36ですよ」と言う。
 私は、更に驚いた。36を引けば私のスコアは54、プロ並みではないか? いや、スコアだけ見れば、プロよりいい。本当に驚いた。
 思わず主人の顔を見た。主人はにこやかに笑っていた。確かに、他の教授婦人達も、上位を占めていた。

 私は、皆さんの温かい心に感謝しながら、優勝杯をいただいた。ゴルフの優勝はあとにも先にもこれ一回のみである。因みに、その日の主人は、ブービー賞だった。

 そして、よく見ると、いただいた優勝杯には、「武智杯」と掘り込んであった。奇しくも、当時、主人が学長であったからだった。
 その取り切りの優勝杯は、今もリビングの飾り棚に飾ってある。偶然ではあるが、今は亡き主人からのプレゼントのように思えた。

 私は、よく見えるように、戸棚の一番前に置き換えたのだった。私にとって、深く心に残るこの優勝杯を、いつまでも大切にしたいと思う。


イラスト:Googleイラスト・フリーより

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