A038-元気100教室 エッセイ・オピニオン

起こされて  森田 多加子

 暑かった今夏の寝苦しさから解放されて、気持ちよく寝ていた朝、突然スマホのけたたましい大きな音で目覚めた。


 私たち夫婦は、いつも遅起きだ。
 早い朝は熟睡している。けれど、今朝は、突然朝早くから起こされ、何のことやらと、ぼんやりした顔を見合わせた。家は揺れていないので地震ではなさそうだ。
「なんだ?」 
 同時に外からサイレンが聞こえてきた。スピーカーで何か流しているので、聴き耳を立てた。

『北朝鮮によるミサイル発射がありました。北海道地方から太平洋へ通過するもよう』


 このスピーカーは、毎日夕方五時になると、(良い子のみなさん、おうちに帰る時間です)
と、流していた音だ。町全体に響き渡るような音で流れる。当然、これはうるさいと苦情が出たらしいが、
(緊急のお知らせをする必要があるときのための予行練習です)
 と、いう市からの回答だった。

 緊急の時というのが、この報せだったのか。


 すぐテレビをつけた。
 男性のアナウンサーが、私に向かって緊張した面もちで話しかけてくる。外から聞こえているメッセージと同じで、北朝鮮からミサイルが発射されたということと、

「できるだけ頑丈な建物や、地下街などに避難してください」

「できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください」

「落ち着いて行動してください」

 何度も、何度も同じ言葉を放送している。

 外ではまだサイレンが鳴っている。
 戦時中の記憶がある私としては、敵機が上空にきているという報せの【空襲警報!】のサイレンにそっくりなので、怖くなって何が何だかわからない状態になった。

「この辺に頑丈な建物や地下街なんてないしねえ」
「うちは鉄骨なので、頑丈な建物のうちにはいるんじゃない? 家にいればいいよ」
「でも、窓のない部屋なんてないものね」
 後から考えると、漫才のような夫婦の会話だったが、ぼそぼそと話しているうちに、ミサイルは北海道上空を通過してしまった。

 Jアラートが発令されて、たったの4分だ。何もできなかった。実際、この上空にミサイルが飛んできたら、避難できる時間ではない。日本のおえら方が「国民を少しおどかしておこう」……なんて……言っている妄想が浮かんだ。

 戦時中の【敵機襲来】の怖さは妄想ではない。
 あの怖さを知っている年齢の人も、もう少なくなってきた。二度と同じ事態にならないようにと、改めて切実に感じた。

 いつもなら、まだ寝ている時間だが、中途半端なので、はっきりしない頭をフリフリして起きることにした。
(大丈夫でしたか?)
(これでは狼少年になりかねませんね)
 ラインに心配したメールがはいる。
 緊急連絡なので、狼少年などになってはいけない。
 ならないように気を付けたいが、4分では避難場所に移動すらできない。

 実際の話、連絡があったときにどんな行動をとればよいのか、未だ全くわからない。

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