笑いも人それぞれ 月川 りき江
20年ほど前、健康体操の先生が、1日に1回、大声をだして「ワッハッハ」と笑いなさいと言われた。
「夫と2人暮らしでは、あまり大声だして笑うことはありませんよ」
と言っても先生は、
「ワッハッハと言うだけでもいい」
と言われたがむずかしい。
以前、夜ベッドに入って、ある本を読んでいる時、夜中の1時頃声に出して笑ったことがある。
『ある男がいた。彼は酒も飲まず、たばこも吸わず、美味しいものも食べず、旅行も行かず、賭け事もせず、女遊びもせず、百歳まで生きた馬鹿がいた。』
と書いてあった。
私はこの「落ち」が面白くて大声をだして笑った。
この本は、面白半分の本ではなく、まともな作家の本で、テーマは人生に関する内容だったと思う。(現在は百歳まで生きる人は多いが、昔は少なかった)
そして翌日、夫(六五歳)に、この話をした。
いつも明るい性格だから、一緒に大笑いするものと思っていたが、夫は笑わなかった。ニコリともしないで、ぶすっとしてリビングのソフアーに座った。
その日は朝から機嫌が悪かった。
多分前日、会社で面白くないことがあったのだろう。私としては、よかれと思って言ったのだが、タイミングが悪かった。
やはり男性と女性は受け取りかたが違うのかな? と思い、九州の妹に電話をした。本の話をしたら、妹は大声をだして笑った。
「そこでお願いだけど、あなたの旦那に話して反応をみてよ」
と頼んだ。
この妹婿は地味な性格で、常々ユーモアもなく、会ってもあまり会話も無い面白くない人だ。ただ年齢が五十代だから、ちょっと期待した。
翌日、妹から電話があり、
「笑いもなし、コメントもなし」
と言う。
そして妹は小声で、
「やっぱり面白くない男ね~」
と二人で笑った。
次に同じ長崎に住む姉に電話をした。この家は自営業で洋品店をしているので、姉がすべてに支配しているから、夫は尻にしかれている。真面目で、おとなしい性格である。
「百歳まで」の話しは姉も大笑いした。そして又、旦那の反応を聞いてみた。
翌日、姉からの返事は、
「笑顔もなく、『可哀想に』と言ったよ」
と笑っている。
おそらく自分の立場に置き換えたのかもしれない。そういえば、義兄は酒も、たばこも、旅行も、賭け事も、女遊びも、しない大真面目な人だ。
しかし、兄弟みんなが驚くほど、義兄は妻を愛している。幸せな人である。
日本人はユーモアが少ない、と常々思っている私は、軽い気持ちで面白がって人の気持ちを試したことを、少々反省している。
イラスト:Googleイラスト・フリーより