特別出演・のこぎりキング下田が巧妙な演奏で魅了=東京・浅草木馬亭
浪曲寄席で、NO.41として「富士路子一門会」が2016年11月27日(日曜)、芸人のメッカ浅草の木馬亭で行われた。
『荒神山三席イン木馬亭』と称して、富士路子一門でつづる荒神山の博徒たちの喧嘩である。
三席の最初の演目は、『荒神山喧嘩の発端』 口演は富士路子 曲師(三味線)は伊丹秀敏である。
「ああいう輩(やから)には、かかわらないほうがよい」
世間はそうでも、浪曲師が喉をうならせると、だれもが陶酔し、聴き入る。
三席の合間には、巨大なのこぎり演奏が観客を魅了した。
特別出演は、「のこぎりキング下田」で、卓越した演奏である。
下田が早稲田大学に在籍ちゅう流行した、『遠くに行きたい』からはじまる。情感に満ちた曲で、満員の観客はしんみり聴き入っていた。
ちなみに、かれは当時「都の西北……」と名高い、早大・応援団の吹奏楽部員として在籍していた。
「のこぎり演奏には気が弱い、気が小さい、震えがくる、これが最適な性格です」
と言いながら、微妙な音が長い鋸(のこぎり)から発せられると、観客席がわいた。
「貧乏ゆすり。これも必然です」
両膝を細かく震わせながら、のこぎりで微妙なバイブレーションをつけてみせる。
「のこぎりは管楽器ならず、勘楽器だ」
こうした軽妙なトークで、笑わせる。
『かあさんの歌』は心を癒(いや)す。
下田は生まれた年に、父親を亡くし、母親のあつい愛情の下で育てられたという。母にたいする感謝の想いがつよい。それが演奏にこもっていた。
最近は小学校から童謡がしだいに消えはじめた、と下田は憂(うれ)う。情緒・情感の教育が退化し、それに反比例して、惨い事件が多くなった、と社会現象にも話がおよんだ。
国際派のアーティスト下田は、海外活動もこなし、フランスの他、来年(2017)5月は、カンボジアでも演奏が予定されている。
『旅姿三人男』
こうした日本の曲にも、演奏がおよぶ。
①『旅笠道中』の軽妙な生演奏をお楽しみください。左クリックで、動画になります
②のこぎりキング下田「ゲゲゲの鬼太郎」。左クリックで、動画になります
「荒神山喧嘩。吉良仁吉」。舞台には4人の浪曲師が共演する。
口演は(左より) 若燕、富士路子、実子、綾那、曲師は伊丹秀敏である。
美女も浪曲師になる。「実子」。時は慶応2年4月~と口演がつづく。
荒神山の喧嘩は、博徒たちの女争いが原因らしい。男の性(さが)なのか。
若手が育つ。浪曲の将来も楽しみだ。「綾那」。
(慶応2年4月ならば、第二次長州征討で幕府軍と長州藩が戦う、2か月前だ。東海道筋は徳川譜代や・幕府領で、治安が手薄になったから、博徒が伸したのか)
と思いながら、浪曲を聴くのはちょっと場違いかな。
『安来節』 おどりは東家若燕である。
観ているだけでも、愉快だ。
富士路子『荒神山喧嘩。神戸の長吉』の三席が完結すると、観客から、感動の拍手が響く。出演者たちはそれぞれ花束を受ける。
笑顔の芸人たちは、この感慨のために日夜、芸事に励んでいるにちがいない。