A045-かつしかPPクラブ

『力まず、ほんわか、草だんご』 (下)  鷹取 利典

  当店は、昔から木の折り入りだ(11個入り700円)。最近はやりの食べ歩きに合わせ、プラ容器で1個60円でも味わえる。味変も楽しんでもらおうと、店頭には、黒蜜ときな粉の小袋(各30円)もおいている。


 他に変わった食べ方はないかと失礼な質問を向けてみた。自分はやらないが、お客さんが焼いて醤油を付けて食べたとか、お鍋に入れ食べたとか聞いたそうだ。


 それも、甘みを入れていない草だんごだからできるのかもしれない。しかし、やはり王道のあんことの組み合わせが、最上である。


  出来立てのおだんご(左)         それを一つひとつ手でちぎる(右)

●吉野家の看板                    

 三代目ご主人の名取さんが、9年前、先代が亡くなった後、お店を改装した。その際、取り替えた看板は、杉板に店名を彫った物だった。
 しかし、板の乾燥が不十分だったためか、黒ずんでしまった。
それを聞いたお客の看板屋さんが、今の看板を作ってくれたと話す。包装紙の文字を使って、立体的な看板になっている。


(左:現在の看板) (右:9年前、杉板に彫ったの看板)

●吉野家の包装紙                  

 吉野家の包装紙は、無地のピンクの紙に、「柴又 名物草だんご 吉野家」と書かれている。(「ご」は、「古」に「”」を付けた変体仮名を使っている。)

 さらに10年ほど前までは、紐で十字に結わえてあった。しかし、今はやめている。

《あとがき》

 追加の取材に尋ねたのは、ゴールデンウィークの初日。季節外れの寒波到来で、少し寒い日だった。それでも帝釈天の参道を訪れる人が多かった。

 お客さんが店頭で「ここ、昔は行列に並ばないと買えなかったのよ。」とお友達に話しかけていた。心の中で(このひとも昔からのファンなんだ。)と呟く。

 次のお客さんが1つだけ買って、店先で食べ始めた。名取さんが「よもぎが、他と違いますよ。」と言うと、「本当、美味しい。」と笑顔で応えていた。

 名取さんに「今のお客さん、嬉しそうでしたね。」と話しかけると、「そうなんです。『ここのを食べたら、他のは食べられない。』と言ってもらえるのが、一番嬉しいです。」と笑顔を浮かべた。

 お客さんの言葉で一喜一憂する客商売。美味しいの一言が聞きたくて、今日も力まず、竈の炎の様なほんわかとした名取さんだった。

「食べログ 東京 ベストスイーツ部門 2014年度」受賞



 「食べログ」というインターネットの食べ物紹介サイトがある。その中で、「東京 ベストスイーツ部門 2014年度」に、吉野家の草だんごが、37位を受賞した。お店の脇に、主催者のシールが貼ってある。しかし、名取さんは、そんなことを一つも自慢しない。見て、食べて、リピーターが増えることが嬉しいと語ってくれた。

                        《了》

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