小説家

文藝同人誌『川』4号 日本ペンクラブ有志 = 発刊

 日本ペンクラブ(PEN)の書き手が、何かの席で、最近の出版社はすぐ「売れる作品」を要求してくるけれど、それは文学じゃないよな。本当の文学を書かしてくれる場がない。
 それならば、われわれで文藝同人誌を作ろうじゃないか。小中陽太郎さん(PEN理事)が音頭を取った。

「俺たちプロ作家が自費で「同人誌」か。抵抗あるな」
 われわれの大先輩・PEN元会長の志賀直哉だって、大正時代に「白樺」を起ち上げたじゃないか。その精神だよ。日本ペンクラブ初代会長の島崎藤村「破戒」も自費出版だし、夏目漱石「こころ」も、初版がそうだよ。
 事務局を引き受けた高橋克典が補足する。

 そんな勢いから1号をだし、2号、3号と出版してきた。私が3号で掲載した「ちょろおしの源さん」が、出版社の目にとまり、それを巻頭作品にし、中編4本を追加して題名『神峰山』で昨(2018)年11月に出版された。

「3号雑誌かとして思っていたけれど、まさか4号まで来るとは思わなかったな。みんなは金を出しても、本ものの文学を書きたい連中なのだ。文学は人間を描くもの。金儲けが目的じゃないものな」
 そんな意気投合したメンバーが年初に入稿し、3月初旬には刷り上がってきた。編集長は渡辺勉で、この道は半世紀、目の肥えた大ベテランだ。

 作品を簡略にふれてみると、

 ・飯島一次は、3-4ヵ月に一度は文庫の時代小説を世に送り出している。ふだんは、さらさらと読めるライトな文章である。この「川」4号においてタイトル『陽成院』として、純文学・時代小説といえるほど濃密な文体作品だ。


 ・早稲田大ちゅうに地中海のリペア、チュニジア、アルジェリア、モロッコを放流して大学除籍になり、学習院に入り直した中村裕が『サラマンドル』を掲載している。


 ・映画監督・作家の瀬川正仁は、軍事革命軍のアジア諸国でも平気で入る人物だ。いまだ命があるから、今回は「夢のあとさき」を書いている。


 ・高橋克典「神の名人(4)歌う人」は、小説を書きたいな、と思う人には良きに付けても悪しきに付いても、面白い描写がある。
 
 かれが松本歯科大学を中退し、作家をめざそうと、田舎暮らしの芥川作家・丸山健二の自宅に安曇堂の菓子折りをもって訪ねる。話しを進めるさなか、「で……」と手を突きだす。菓子折りを渡すと、「そうじゃなくて原稿だよ」、「じつは、まだ小説を書いたことがないんです」、「だったら、君が書こうとするあらすじを聞かせてもらおう」。学生は弱りきった。「ある一人の男がいまして、父親の歯科医をやりたくなくて、小説家を志して、東京へ」「わかった、わかった、もう良いよ。君は小説技法でなく、人生相談に来たわけだ。君みたいな若者がよく来るんだよな。よせ、よせ、小説を書く理由もなければ、奪ったことも盗んだこともない、人を殺そうと考えたこともない。そんな奴に小説などかけるわけがない。~どんな努力しても小説など書けないんだよ」

 きっと高橋の回顧が素材だろう。この後も面白いけれど、著作権があるから、割愛する。

 ・穂高健一「俺にも、こんな青春があったのだ」は、ちょうど百年前の1019年の第一次世界大戦で、日本海軍がマルタに行く。それが時代背景である。


 ・能村胡堂賞作家の塚本青史は「はもん」である。取材力のある実力派である。


 ・短歌として呑風郎「獣語」


 ・随想・断章として上田豊一郎「J・Dの赤いジャンパー」、小中陽太郎「仏文イヒヒヒ考」がある。


 ・語り芝居「カジンスキー・INヒロシマ」は岸本一郎はニューヨーク在住で、帰朝公演の貴重な台本である。
 この作品の掲載まで口説き落とすのに2年かかったと、編集後記に書かれている。

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