A020-小説家

第79回・元気に100エッセイ教室= 文章は流れるように書く

 ビジネス文は結論から書く。そして、その理由を書きつづっていく。叙述文はむしろ逆である。一つの起点を定めると、そこから行動が発展し、流れるように書いていく。
 これが逆になると、作品がゆるみ(底が割れる)、読み手の緊張感が損なう。あるいは後追いで、読まされている感じになる。作品自体がつまらなくなり、読者は途中で投げ出してしまう。

 では、どうしたら良いのか。事例で、そのコツを会得してください。

【事例研究】

A 良くない例


・婚約を破棄した。かれは他の既婚女性と深い関係だった。私と付き合う以前からだと認めた。とても許せなかった。この事情を両親に話せば、そんな陰のある性格なら、結婚してから離婚するより、いまの方が良いだろう、と言われた。

  底(結論)が割れてしまっている。婚約はすでに破棄しているから、ハラバラドキドキ感がなくなる


・中禅寺湖の湖畔の紅葉がいま盛りだった。旅仲間の眼が赤く染まり、それぞれデジカメで撮っていた。それから、お土産物屋に立ち寄った。色づいたのは9月後半からですよ、と店員におしえられた。

 単なる説明にすぎなくなる


・どろどろの水田で転んでしまった。嫌だな、と身を見た。この5月には農家に体験で出かけたときのことだった。

  後付では、緊張感がそがれてしまう


B 現在進行形ばかり書いていくと、作品が平板になります。しかし、唐突に過去に入ると、読者は混乱してしまいます。
 ここから過去に入りますよ、と読者にしっかり知らしめてから、過去の描写にも入ることです。

・ 湖畔で紅葉を撮る私は、ふとこの夏の海辺を思い出した

・ 婚約を破棄した。刷り上がった結婚案内状を見つめる私の脳裏には、その経緯がよみがえってきた

・ 初体験の農作業の出来事はいまだに忘れられない。蛭に噛まれるかも、とおそるおそる田んぼに入った。用心し過ぎると、かえってバランスを崩してしまうものだ。想いきり転倒してしまった。


C エッセイは心理優先主義で書けば、文章の流れがよくなる。つまり、行動の前段階で、心理を書いておけば、読者が感情移入してきます。


『行動から書いていく(悪い例)』

  入院病棟の診察室で、母を担当する医師に会った。
「この先は自宅療養をしてください」
 医者は冷たい無機質な顔だった。
「新病棟に移させてくれませんか」
「もう予定患者数に達しています。無理です」
「ダメですか」
 私は途方に暮れた。

 このように行動から書いていくと、作品が味気なくなります。


『心理から書いていく(良い例)』
 
 病院の都合で母を退院させられたら、たまったものではない。私にはとてつもない負担になる。旧病棟は壊される。なぜ、竣工がちかい新病棟に移させてくれないのか。母を狭いマンションに引き取れば、妻とのいさかいも多くなるだろう。
「老母といっしょに出ていってよ」と言い出しかねない。
 この際は、病院の担当医と話し合ってみよう。ダメだと言われたら、もはや打つ手はない。翌朝、病院の待合室で、私は不安いっぱいで、呼ばれるのを待った。


 心理優先で書けば、読み手の心をしっかり誘い込み、次はどうなるのか、と求心力が強まります。

【事例研究】

 写真で例えれば、噴水を見ている中高年の情景を書くよりも、そのなかの一人(私)の心理や心象をまず書き込む。(いま悩む事柄など)。
 そして、何気ない態度で仲間と神奈川県立・相模原公園にきた、散策の景色を書く。そうすれば、読者もいっしょに歩いてくれます。

 皆さんも、独自にチャレンジしてみてください

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