A030-登山家

アメリカ合衆国大統領と山 = 上村信太郎

 日本の首相の名前が付けられた山というのは聞いたことがないが、アメリカ大統領の名前が付いた山がカナダや南極にもあることはあまり知られてないようだ。

 まずは北アメリカ大陸の最高峰から。正式な山名が「デナリ」になったのは平成27年(2015)8月31日から。それまでの旧名がマッキンリー。あまりに有名だが山名の由来まで知る人は意外に少ない。

 明治30年(1897) 1月、探鉱師W・ディッキーがニューヨークの新聞に「アラスカの最高峰(標高6194m)に、大統領候補(当時の)でオハイオ州知事(後に第25代大統領)の名マッキンリーと命名する。」という記事を発表。これがきっかけで山名になったとされる。

 次はジョージ・ワシントン。初代大統領を記念して名付けられた標高1917mのワシントン山がニューハンプシャー州にある。天明4年(1784)にM・カットラーという人物によって命名されたとされる。コロラド州にはリンカーン(第16代大統領)という名の標高4354mの山もある。当時はアメリカ最高峰と考えられていたそうだ。


 アメリカ以外の国では、カナダのセント・イライアス山脈に標高4237mのケネディ(第35代大統領)峰が知られている。J・F・ケネディ暗殺後、カナダ政府が故人の功績を称えて命名したもので、昭和40年(1965)3月に、アメリカの登山家たちの支援を受けた大統領の実弟ロバート・ケネディ上院議員一行が初登頂を果たしている。

  また、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州にはF・ルーズヴェルト(第32代大統領)に因むと思われる名の2896mの山がある。この山と隣接する二つの峰の名を知ればだれもがびっくり。なんと、チャーチル山とスターリン山なのだ。どうやらヤルタ会談を記念して命名されたようである。アメリカ大陸から遠く離れた南極大陸には第7代アメリカ大統領名が付いた山がある。標高4190mのアンドリュウ・ジャクソン山である。


 以上は歴代アメリカ大統領の名が山名になったケースだが、山名だけにとどまらない。
 たとえばアラスカを除いてアメリカで一番有名な山といえば、アメリカ本土最高峰でカリフォルニア州セコイア国立公園にある4418mのホイットニー山と思いがちだが、実際にはサウスダゴダ州のラシュモア山のほうが知られている。わずか標高1707mの花崗岩のこの山には歴代大統領4人の巨大な顔が彫られているからだ。ワシントン、リンカーン、T・ジェファーソン(第3代大統領)、T・ルーズヴェルト(第26代大統領)の顔である。

 このほかに、アフリカ最高峰、標高5895mのキリマンジャロ峰に登頂したジミー・カーター(第39代大統領)は平成6年(1994)に来日してロザリン夫人と富士山に登り、「富士山は神聖で美しい山」と語っている。

 こうしてみると、アメリカ大統領と山とのかかわりの多さに改めて驚く。調べればまだありそうだし、もしかすると将来「トランプ峰」が誕生する日がくるかもしれない。

写真:Google写真・フリー「マッキンリー」より

  ※ハイキング・サークル「すにいかあ倶楽部」会報№63から転載

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