ジャーナリスト

著名な作曲家・演奏家がなぜ無料コンサートを開催?=音楽の原点の発見(中)

 くれなゐ楽団が無料の演奏会を開く、という考え方を思いついた理由はなんですか。作曲家の菊地慶太さん、琴の名演奏家の酒井悦子さん、両名に訊いた。

「パソコンの無料ソフトがありますよね。グーグルだって、無料ですし。それがヒントで、そこから始まったのです」(笑い)。
「当初のマイクロソフトのワードはずいぶん高かったけれど、いまは無料ソフトが多く出回り、多くが無料ワードを使って人気です。くれなゐ楽団は無料ソフトとおなじ入場料はもらわない方向性で臨んだのです」
 菊地さんの説明には、妙に現代性を感じた。

「そうです。音楽会も無料の方が、無料ソフトと同じく、宣伝効果は高く、人気が出るのじゃないかしら、10年間はやってみましょう、という考え方で始めましたのよ。とかくありがちな、メンバー間の分担金でもめる破たんは少なくとも10年間はありませんしね」
 酒井さんが補足した。

 無料だから良くない演奏だとか、アマチュアだとか、そんな先入観が世間にはある。アマ・バンドが勝手に演奏会を開いている、と思われない対策もくれなゐ楽団は講じている。
 公共の会場を借りると同時に、公的な地域性、福祉性を前面に出すために、区役所、区長の後援を受ける策をとっている。
「その交渉の段階で、くれなゐ楽団は営利を目的としていない。この無料が決め手になるのです」
 第1回目が墨田区、第2回が例外的な佐野市、第3回が東京にもどってきて荒川区、江戸川区、江東区、葛飾区、そして7回目が今回の足立とつづいてきた。
「区によって、対応がまちまちですのよ。会場費はちがうし、区の広報に載せてくださるところ、それもまったくないないところ。ずいぶん違いますのよ」
 行政の対応のバラバラ加減は、それなりに理解できた。
        
 くれなゐ楽団のメンバーは雇われている意識は皆無です、とふたりは口をそろえる。

「メンバーは、自分のバンドという意識で、みずから役割を見つけて、積極的に動いています。会場で重い荷物を運ぶひと、お弁当を買いだしに行くひと、餅屋は餅屋、そういう分担で自主的に動いています。酒井さんは顔が広いし、集客とかをやってくれています。ぼくは譜面しか書けない」
「譜面がなければ、演奏ができないでしょう」ふたりの呼吸は合っている。
「演奏会が終っても、費用のかかる打ち揚げなどはしない。いつの間にか、楽屋からだれもいなくなっています」
 メンバーは自分のバンドとして役割を果たすと、分担金の問題もないし、反省会も必要なく、演奏努力にたいする満足感と快さを感じながら、会場から去っているのだろう。

 くれなゐ楽団は、年一度の演奏会を夏場に限定している。音楽家は文化の秋が忙しいので、その期間は外している。
「くれなゐ楽団のコンサートを秋に入れたとすれば、かれらの仕事が秋にきたとき、『この無料演奏会さえなければ』と思うはずです。それは気の毒です。そんな負担をかけたら、みんなに悪い。また、くれなゐ楽団がつづきません。音楽家はお盆が暇なのです。夏の演奏会は10年間継続できる条件のひとつです」
「くれなゐ楽団は夏の風物詩ですもの」酒井が笑みを浮かべた。

 全員がプロです、『ぼくは嫌です』と言われたら、去るものは追わず、それまで、と割り切っている。

「現在のところ『嫌です』という立候補者がいないから、五人編成は続いています。お金はあげてないし、やりたいから来ているのでしょう。リハーサル(練習)の電車賃だけは自前で、あとの負担はない。7年間で、わずか1人が入れ替わっただけです。そのかれとは他で一緒に演奏をともにしています」
 人間にはそれぞれ考え方や意見がある。
 5人が持続可能となると、難しい局面が生じる。その都度、気持を確かめながら、前に進んでいるという。

                   【つづく】

「ジャーナリスト」トップへ戻る