A010-ジャーナリスト

【良書の紹介】 列島縦断 「幻の名城」を訪ねて=山名美和子

 旅好きなも人、歴史好きな人、一日意義ある過ごしたい人には、このたび出版された山名美和子著「列島縦断『幻の名城』を訪ねて」(集英社新書・760円+税)がお勧めである。

 山名さんは、お城に関して、日本で第一人者だ。と同時に、お姫様の物語は、現作家のなかにおいて右に出る人はいないだろう。
 緻密な取材で、それをわかりやすく読みやすく書かれる女流作家だ。

 お城には長い歴史がある。建物そのものには地形、地質に見合った構造の特徴がある。数百年の歳月を経て、武士たちが大切に守ってきた。それらが文化財として遺されている。
 それを簡素にして明瞭に紹介した「列島縦断『幻の名城』を訪ねて」である。

 このところ雑誌コーナー、旅コーナー、歴史コーナーでは、お城紹介の美的な写真付きカタログ以上の出来栄えの派手な『日本の城』本が多い。住居が狭くなり、応接間に書籍に飾る時代ではなくなった。ネット時代でもあり、豪華本など、どこに置くの? 1円しか売れない時代である。

 といっても、旅先に持っていきたい手ごろな本はほしい。旅行ケースに、ちょっと忍ばせる。山名美和子著「列島縦断『幻の名城』を訪ねて」は手ごろだ。旅先で、半日、一日の休暇過ごし方として、お城めぐりは知的であり、気分一新、旅情を醸し出してくれるものだ。

 同書の良さは、なんといっても首都圏のひとには、「大東京で探す『幻の名城』だろう」、お子様を連れて行けば、社会科見学にもなるし、家族で楽しめる。同書は、お城へのアクセスもていねいに書かれている。

 たとえば、江戸城はともかくとしても、平塚城(豊島園)、石神井城(石神井公園)、練馬城、渋谷城、世田谷城、深大寺城、滝山城、八王子城と、ここらのお城紹介が豊富だ。新書版の見開き(2ページ)、2ページ半くらいだから、なにしろ肩が凝らない。

 
 私は来週に広島にいく。備中松山城にも行ってみるつもりだ。広島からでは割りに遠い。岡山から伯備線に乗り、高梁駅前から乗り合いタクシー500円(要・予約)だ。そこから徒歩で登る。
 帰路も、そのタクシーの予約したら、『4時間もお城で何するんですか。飽きますよ。皆さん30分-長くても1時間です』と言われてしまった。
 藩主・板倉勝静の話をしても仕方ないので、日本一高い山城で、昼寝でもしていますよ、と曖昧にごまかした。
 
 3カ月前、前泊で、津和野に、明治初期のキリシタン弾圧の取材にいった。と同時に、津和野国学。藩主の亀井玆監(かめい・これみ)なども克明に調べた。
 さらには長州戦争で、津和野藩はなぜ幕府側についていながら、大村益次郎の軍隊を無抵抗でスルーして石州へ行かせてしまったのか。
 それなりに取材目的をはたしてきた。

 山名さんの「列島縦断『幻の名城』を訪ねて」を開いて、津和野城は頭になかったな、失敗したな、と失笑した。


 城郭がなくても、歴史は楽しめる。私なりの実例を示すと、去年の秋、長州藩「萩城」(萩市)はないと知っていて、あえて取材に行った。
 山名さんの『幻の名城』にも、萩城は記載されていない実例だが……。

 明治維新の廃藩置県のとき、木戸孝允が藩主の毛利敬親(たかちか・通称:そーせい公)に両手をついて、「鎌倉時代から続いた武士制度を、ここで一気に無くしたいのです。武士の象徴となるお城を取り壊していただきたいのです。それには、毛利家からお手本をお見せください」と懇願した。
「つらいのう。どうしても、この城を取り壊さねばならぬのか」
「はい。徳川家をつぶした、戊辰戦争で平定したといっても、江戸(当時はもう東京)など東日本の民は御一新に満足しません。実のある、皇国・親政(しんせい)国家のため、西側の毛利家から、まず犠牲を払っていただきたいのです。毛利家の象徴の、お城を取り壊させてください」
「わかった。武家社会の終焉(しゅうえん)なんじゃな。余の代で、お城は無くしてもよい。緒家はともかくとして、萩城は取り壊そう」
 と敬親がいうと、木戸が涙を流していた。

 これが維新後の廃城第一号である。山口県の人は、これは毛利家のお殿様の大決断だといい、いまだ県民は萩城の復元を言いださない。

 坂下門外の変で、暗殺されかかった老中首座・安藤信正の「磐城平(いわきたいら)城」などは、戊辰戦争で自焼したあと、いまではお城の輪郭さえもわからない。

 山名美和子著『幻の名城』の副題には『コンクリート造りの城では満足できない人へ』がついている。
 古城に行って、城郭がなくても、地場の人から、口承を聞くのもひとつの方法だろう。まだまだ明治維新から150年である。話題がいっぱい残っている。それがお城歩きの面白さである。

 滝廉太郎の「荒城の月」を想い出させる城探しなども面白いだろう。

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